・・・ 倫理学の根本問題と倫理学史とを学ぶときわれわれは人間存在というものの精神的、理性的構造に神秘の感を抱くとともに、その社会的共同態の生活事実の人間と起源を同じくする制約性を承認せずにはいられない。それとともに人間生活の本能的刺激、生活資・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・宇宙と自己、社会共同体と自己、自己の使命的仕事、人類愛ならびに正義の問題等は恋愛よりもさらに重き、公なる題目として関心されていなければならない。恋愛よりもより強く、公なるイデーによって、衝き動かされないことは男子の不面目である。恋愛をもって・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・支那兵は、彼等と一緒に、共同の敵にむかったときにもそうするであろうように執拗に犬の群を追いまくった。もう、彼等は、お互いに××なかった。 三日後、十一月十七日、日本軍は、全線に亘って、いっせいに前進を開始した。 彼等の属している中隊・・・ 黒島伝治 「前哨」
・・・いつ弾丸の餌食になるか分らない危険な仕事は、すべて日本兵がやらせられている。共同出兵と云っている癖に、アメリカ兵は、たゞ町の兵営でペーチカに温まり、午後には若い女をあさりにロシア人の家へ出かけて行く。そこで偽札を水のように撒きちらす。それが・・・ 黒島伝治 「氷河」
・・・樹蔭に置並べた共同腰掛には午睡の夢を貪っている人々がある。蒼ざめて死んだような顔付の女も居る。貧しい職人体の男も居る。中には茫然と眺め入って、どうしてその日の夕飯にありつこうと案じ煩うような落魄した人間も居る。樹と樹との間には、花園の眺めが・・・ 島崎藤村 「並木」
・・・そうそうは太郎一人の力にも及ぶまいから、このほうはあの子の村の友だちと二人の共同経営とした。地租、肥料、籾などの代を差し引き、労力も二人で持ち寄れば、収穫も二人で分けさせることにしてあった。 いつのまにか私たちの家の狭い庭には、薔薇・・・ 島崎藤村 「分配」
・・・裏の二軒の家が共同で使っている。裏の二軒は、いずれも産業戦士のお家である。両家の奥さんは、どっちも三十五、六歳くらいの年配であるが、一緒に井戸端で食器などを洗いながら、かん高い声で、いつまでも、いつまでも、よもやまの話にふける。私は仕事をや・・・ 太宰治 「作家の手帖」
・・・そのころ既に私は、Hという女と共同の家を持っていた。田舎の長兄から、月々充分の金を送ってもらっていたのだが、ばかな二人は、贅沢を戒め合っていながらも、月末には必ず質屋へ一品二品を持運んで行かなければならなかった。とうとう六年目に、Hとわかれ・・・ 太宰治 「東京八景」
帝劇でドイツ映画「ブロンドの夢」というのを見た。途中から見ただけではあるし、別に大して面白い映画とも思われなかったが、その中の一場面としてこの映画の主役となる老若男女四人が彼等の共同の住家として鉄道客車の古物をどこかから買・・・ 寺田寅彦 「鴉と唱歌」
・・・先生方はそうして得らるる時間の余裕を利用して色々な教材の映画シナリオの共同編纂に従事することになるであろう。それらの試作映画を文部省かどこかで検定し、優秀なものは全国に配布することも出来るであろう。これは夢のような話ではあるが、しかし実現の・・・ 寺田寅彦 「教育映画について」
出典:青空文庫