・・・ 私はその文章をよんで、女同士の共感というものも歴史性の相異によっては、全く裂かれているものだという事実を面白く思った。そして自分に即さず一つの社会的な事実としてこの事を観察すると、私は、日本の現在の階級対立のけわしさや、そのきびしい抑・・・ 宮本百合子 「新しい一夫一婦」
・・・彼の芸術が日本の文芸史のなかにあれほど巨大な場所を占めているのを見れば、近松の情の世界が、日本の社会の歴史のなかではいかに長い世代にわたって一般の感情に共感をよびさますものであったかがうかがわれる。その封建時代の女心が男女にこぼさせた涙が今・・・ 宮本百合子 「新しい船出」
・・・ 他のヨーロッパ諸国の社会生活の苦悩と自分から出口をふさいでもがいている自己矛盾とに強い印象をうけて戻って来た作者は、日夜の共感をもって、ソヴェトの人々が社会主義社会を確立するために奮起した情熱と実力とにふれた。社会の現実はどのようにし・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第九巻)」
・・・旧いブルジョア文学にはあき足らず、しかし、無産派文学には共感のもてない小市民的要素のきつい若い作家たちが、新感覚派や新興文学派のグループにかたまった。 文学におけるリアリズムの歴史としてみれば、この時代から、日本のブルジョア・リアリズム・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第三巻)」
・・・国内戦や飢饉時代ののちに、夫婦がそうして安心して子供を産み、よろこびをもって育ててゆくことのできる大人のよろこびの揺ぎない深さも、しんから共感できた。すべてそれらのよろこびは、ソヴェト市民の一人一人が一九一七年以来、たえまないめいめいのたた・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第八巻)」
・・・それぞれの権威で文壇を封鎖している旧いブルジョア文学にはあき足らず、さりとて無産階級の文学運動に対しては自分たちの属している社会層の小市民風な生活感情から共感がもてず、どちらに向っても抵抗しながらドイツの表現派の手法を模して漠然と新しい生活・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第六巻)」
・・・、その父であった木部に対して恋心めいたものさえ甦える場面は、ある種の読者を魅するであろうが、真にある男を愛し、やがてそれを憎悪したという痛烈な経験をもっている女の読者がその部分を読んだとしたら、果して共感を胸に感じるであろうか。 木部に・・・ 宮本百合子 「「或る女」についてのノート」
・・・そこにやはりあちらでもそのような視線をもって周囲を眺めている一対の黒く若々しい眼が出会ったとき、単なる知り合い以上の共感が生じる。そして、やがて友情が芽生え、その友情はあらゆる真摯な人間関係がそうであるとおり、互の成長の足どりにつれて幾変転・・・ 宮本百合子 「異性の間の友情」
・・・幼稚園時代から引つづいた男の子と女の子との共同生活の感情が、成長した若い男女の社会的な働く場面へまで延長されている社会なら、両性の共感の輪も内容もひろげられ、明るくされ、今日つかわれる異性の友情という表現そのものが、何か特定な雰囲気を暗示し・・・ 宮本百合子 「異性の友情」
・・・作品の縦糸としては、細川忠利と家臣阿部彌一右衛門との間にある永年の感情的なしこりが、性格と性格との間に生じるさけがたい共感と反撥の姿として周密にとりあげられている。細川忠利は、初めは只なんとなく彌一右衛門の云うことをすらりときけない心持で暮・・・ 宮本百合子 「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」
出典:青空文庫