・・・男の方がたいてい大人しくしおらしくて女の方がたいて活溌で度胸がいいのがこうした群に共通な現象のようである。神代以来の現象かもしれない。カメラを持った男のきっと交じっているのは近頃のことである。 帰りに青梅を出て間もなく二度までも巡査に呼・・・ 寺田寅彦 「異質触媒作用」
・・・わたくしは円タクの窓にもしばしば同じような花のさしてあるのを思い合せ、こういう人たちの間には何やら共通な趣味があるような気がした。 上框の板の間に上ると、中仕切りの障子に、赤い布片を紐のように細く切り、その先へ重りの鈴をつけた納簾のよう・・・ 永井荷風 「寺じまの記」
・・・これは我が田へ水を引くような議論にも見えますが、元来文学上の書物は専門的の述作ではない、多く一般の人間に共通な点について批評なり叙述なり試みた者であるから、職業のいかんにかかわらず、階級のいかんにかかわらず赤裸々の人間を赤裸々に結びつけて、・・・ 夏目漱石 「道楽と職業」
・・・幾ら科学者が綿密に自然を研究したって、必竟ずるに自然は元の自然で自分も元の自分で、けっして自分が自然に変化する時期が来ないごとく、哲学者の研究もまた永久局外者としての研究で当の相手たる人間の性情に共通の脈を打たしていない場合が多い。学校の倫・・・ 夏目漱石 「中味と形式」
・・・しかも新約は旧約の続篇で、且つ両者の精神を本質的に共通して居る。ニイチェのショーペンハウエルに於ける場合も、要するにまたこれと同じである。ニイチェは如何にその師匠に叛逆し、昔の先生を「老いたる詐欺師」と罵つたところで、結局やはりショーペンハ・・・ 萩原朔太郎 「ニイチェに就いての雑感」
・・・ゆえにそれは、どんなに馬鹿げていても、難解でも必ず心の深部において万人の共通である。卑怯な成人たちに畢竟不可解なだけである。四 これは田園の新鮮な産物である。われらは田園の風と光の中からつややかな果実や、青い蔬菜といっしょにこれらの・・・ 宮沢賢治 「『注文の多い料理店』新刊案内」
・・・ 三通りの発展の段階があるにしても、唯一つ、最も基本的で共通な点は、民主社会においては、婦人が、全く人口の半分を占める男子の伴侶であって、婦人にかかわるあらゆる問題の起源と解決とは常に、男子女子をひっくるめた人民全体の生活課題として、理・・・ 宮本百合子 「合図の旗」
・・・同一の人が同一の場所へ請待した客でありながら、乗合馬車や渡船の中で落ち合った人と同じで、一人一人の間になんの共通点もない。ここかしこで互に何か言うのは、時候の挨拶位に過ぎない。ぜんまいの戻った時計を振ると、セコンドがちょっと動き出して、すぐ・・・ 森鴎外 「百物語」
・・・ 更に此の問題は、われわれの問題とするよりも、広く文学としての問題であると見る所に、われわれ共通の新らしい問題が生じて来るべき筈であろう。 われわれの討論は、今や一斉にここに向けられなければならぬ。 コンミニストは次・・・ 横光利一 「新感覚派とコンミニズム文学」
・・・大多数の人々を共通に動かし得る物は、今の所、センチメンタリズムのほかにないだろう。 誤解を恐れるな。ただ真実の道を歩め。九 怒りをもって怒りを鎮める事はできない。主我心をもって主我心を砕く事もできない。それをなし得るのは・・・ 和辻哲郎 「生きること作ること」
出典:青空文庫