・・・たとえば兵営の浴室と隣の休憩室との間におけるカメラの往復によって映出される三人の士官の罪のない仲のいいいさかいなどでも、話の筋にはたいした直接の関係がないようであるが、これがあるので、後にこの三人が敵の牢屋に入れられてからのクライマックスが・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・ 測候所の向かいは兵営で、インド人の兵隊が体操をやっている。運動場のすみの木陰では楽隊が稽古をやっているのをシナ人やインド人がのんきそうに立って聞いている。そのあとをシナ人の車夫が空車をしぼって坂をおりて行く。 船へ帰ると二等へ乗り・・・ 寺田寅彦 「旅日記から(明治四十二年)」
・・・その時分には県下に二つしか中学がなかったので、その中学もすばらしく大きい校舎と、兵営のような寄宿舎とを持つほど膨張した。 中学は山の中にあった。運動場は代々木の練兵場ほど広くて、一方は県社○○○神社に続いており、一方は聖徳太子の建立にか・・・ 葉山嘉樹 「死屍を食う男」
・・・それから英国ばかりじゃない、十二月ころ兵営へ行ってみると、おい、あかりをけしてこいと上等兵殿に云われて新兵が電燈をふっふっと吹いて消そうとしているのが毎年五人や六人はある。おれの兵隊にはそんなものは一人もないからな。おまえの町だってそうだ、・・・ 宮沢賢治 「月夜のでんしんばしら」
・・・もしそれだけが協力なら、戦争の間は、最も大幅に協力があったことになる。兵営と前線生活では婦人のすることがすべて不幸な召集された男の手によってされていた。銃後では、家庭を破壊されたすべての哀れな女性が、軍の労働者に代って武器製造をした。これが・・・ 宮本百合子 「明日をつくる力」
・・・しかし、日本の大学でも兵営でも、部落の人々の遭遇する運命は多難であった。そして現在も決して偏見がとりのぞかれたとはいえない。松本治一郎氏の天皇制に対するたたかいとパージがよくその消息を告げている。 今日の大学は、どのようなアカデミアであ・・・ 宮本百合子 「新しいアカデミアを」
・・・工場の中、兵営の中、農村、町、ソヴェトの中、教会の中をもいとわず、共産青年同盟員やピオニェールが、アルファベットのカードをこしらえて、七十の爺さんや二十五のお神さんに字を教えはじめた。 それでも、一九二六年には五千七十七万千九百九十七人・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェト同盟の文化的飛躍」
・・・帝政時代のロシア兵営内の生活の愚劣野蛮な絶対主義を遺憾なく示している。「セメント」を上演した写実劇場は新しく「勇敢な兵士シュヴェイクの冒険」を脚色上演しはじめた。 これは、元オーストリア軍隊内の野蛮な腐敗とを諷刺的に描き出したチェッ・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・ストライキ委員会は、それだけの熱意で兵営内闘争をやってくれと云い、兵士と従業員は革命的挨拶を交して別れたということも聞いた。 地下鉄、出札と聞いた瞬間、自分は一種の重圧をもって稲妻のようにそれらの闘争を思い起した。あのような顕著なストラ・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・ 兵営がある。兵営の下は黒っぽい水のゆるやかに流れる掘割だ。上衣の襟フックをはずした赤衛兵が一つの窓に腰かけてまとまりなく手風琴を鳴らしている。ソヴェト・ロシアの兵士は、ソヴェトに選挙された時、二種の委員をかねる権利を与えられている・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
出典:青空文庫