・・・ 筒袖を着物の様に合わせた衿に深く顎を埋めて、金の出所をお節は思案した。 東京の様な質屋めいた家もないではないけれども、栄蔵の元の位置を考えれば、まさかそんな事も出来ないし、今急に、少しでも田地を手ばなす気にもなれなかった。・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・ 懇話会結成当時も、その資金の出所は誰にもはっきり分らなかった。「新日本文化の会」「文化中央連盟」いずれも、どこからどうして出る金でまかなってゆくのであろうか。そんなことは分ってる、と叱られるべき種類のことなのであろうか。躍進日本という・・・ 宮本百合子 「近頃の話題」
・・・国威というものの普通解釈されている内容によって、それを或る尊厳、確信ある出処進退という風に理解すると、今回のオリンピックに関しては勿論、四年後のためにされている準備そのものの中に、主としてそういう抽象名詞を愛好する人の立場から見ても何か本質・・・ 宮本百合子 「日本の秋色」
・・・は目覚ましい勢でひろがって、飛び出そうにも出処のない昆虫はつかれて小屋に戻って来る馬を見るとすぐその身を黒く包み去るのである。 昼は悪い道に行きなやみ、夜は、虫共に攻められる馬は、なみよりも早く老いさらぼいて仕舞うのである。もし斯う云う・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・ プロレタリア文学がまとまった運動としてあった頃は、その仕事にしたがう人々の出処進退というのは、文学の本質が必要としている方向の上から、全般的にとりあげて吟味されたし、読者もそういう点ではプロレタリア作家の現実社会での身の処しかたと作品・・・ 宮本百合子 「プロ文学の中間報告」
・・・現状に対する唯々諾々的態度、その出処進退に終始一貫した人間としての責任感がないことまで、その作家がもっている高い素直さ、人間性という評価をうける甘いホロリズムさえ、いつの間にか這い込んで来ていないことはない。人間性の問題はプロレタリア文学の・・・ 宮本百合子 「文学の大衆化論について」
出典:青空文庫