・・・しかし出来映えを考えれば、或は僕の詩よりうまいかも知れない。勿論或はまずいかも知れない。 芥川竜之介 「小杉未醒氏」
・・・それほどの素晴しい出来栄えだったのである。 審査に立ち合ったクロイツァーは、「自分は十三歳のエルマンの演奏を聴いたことがあるが、エルマンはその時、この少女以上にも、以下にも弾かなかった」 と、激賞した。また、レオ・シロタは、・・・ 織田作之助 「道なき道」
・・・その自信を持たしてくれるのは、自分の仕事の出来栄えである。循環する理論である。だから自信のあるものが勝ちである。拙宅の赤んぼさんは、大介という名前の由。小生旅行中に女房が勝手につけた名前で、小生の気に入らない名前である。しかし、最早や御近所・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・私もさっそく四人の大学生の間に割込んで、先生の御高説を拝聴したのであるが、このたびの論説はなかなか歯切れがよろしく、山椒魚の講義などに較べて、段違いの出来栄えのようであったから、私は先生から催促されるまでも無く、自発的に懐中から手帖を出して・・・ 太宰治 「花吹雪」
・・・学級の出来栄えは教師の能力の尺度になる。一体学級の出来栄えには自ずから一定の平均値があってその上下に若干の出入りがある。その平均が得られれば、それでかなり結構な訳である。しかしもしある学級の進歩が平均以下であるという場合には、悪い学年だとい・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
・・・のような出来栄えである。 拵えものを苦にせらるるよりも、活きているとしか思えぬ人間や、自然としか思えぬ脚色を拵える方を苦心したら、どうだろう。拵らえた人間が活きているとしか思えなくって、拵らえた脚色が自然としか思えぬならば、拵えた作者は・・・ 夏目漱石 「田山花袋君に答う」
・・・ 処で、出来上った結果はどうか、自分の訳文を取って見ると、いや実に読みづらい、佶倔きっくつごうがだ、ぎくしゃくして如何にとも出来栄えが悪い。従って世間の評判も悪い、偶々賞美して呉れた者もあったけれど、おしなべて非難の声が多かった。併し、・・・ 二葉亭四迷 「余が翻訳の標準」
・・・気のない見物を当てにせず、芸当を自分でやってその出来栄えを楽しんでいるような風があった。その男の黒紋付は、毎日埃を浴びて歩くので裾のところの色が変っている。雪の深い地方らしい板屋根の軒を掠めて水芸道具の朱総がちらちらしたり、太鼓叩きには紫色・・・ 宮本百合子 「白い蚊帳」
・・・ 裾の長さまできめてから、多喜子は自分も立ち上って、出来栄えを眺めた。「思ったよりよかったこと――お袖のところいいかしら? つれません?」「――いいようよ」 桃子が、「原さん、すっかり板についちゃったなあ」 感歎する・・・ 宮本百合子 「二人いるとき」
出典:青空文庫