・・・が、アナウンサーの紹介を聴いたとたん、私は思わず涙を落しました。出演者は思いもかけぬ父の円団治でした。なつかしい父の声、人々は皆蚊帳の中にはいってゲラゲラ笑いながら聴いているのに、自分一人こうして蚊に食われながら、ポロポロ涙を落して聴いてい・・・ 織田作之助 「アド・バルーン」
・・・ 演奏会の話も、レコード吹き込みの話も、そして映画出演の話も、こうして、すべて立ち消えになってしまった。 やがて、父娘は大阪行きの汽車に乗った。車窓に富士が見えた。「ああ、富士山!」 寿子は窓から首を出しながら、こうして汽車・・・ 織田作之助 「道なき道」
・・・夏川静枝も処女出演した。 上演は入りは超満員だったが、芝居そのものは、どうも成功とはいえなかった。作者としては不平だらだらだった。しかし舞台協会の諸君は人間として純情な人たちばかりで、私とも精神的な交感が通っていた。 映画にとりたい・・・ 倉田百三 「『出家とその弟子』の追憶」
・・・それはこれから見に行こうとしている明治座の喜劇に出演する筈のその当人であるらしい。舞台顔は数回、但しいつもだいぶ遠方の二等席からではあるが、見たことがあり、演芸の雑誌などでしばしば写真を見たことがある。しかし、それにしても乗っているのが青バ・・・ 寺田寅彦 「初冬の日記から」
・・・ 数日たった後に帝劇で映画の間奏として出演しているウィンナ舞踊団を見た。アメリカのと比べてどこか「理論」の匂いがある。それだけにやはり充実した理窟なしの活力といったようなものが足りなくて淋しい。見物は義理からの拍手を送るのに骨を折ってい・・・ 寺田寅彦 「マーカス・ショーとレビュー式教育」
・・・そして、国立劇場や小劇場に出演した。ショウの「セント・ジョン」でジャンヌ・ダークを演じたりして好評をえている。 エリカ・マンには、女性にめずらしい特長があり、疲れを知らない行動力、強靭な運動神経がある。ヘンリー・フォードが催したヨーロッ・・・ 宮本百合子 「明日の知性」
・・・ この演出に、我々はクニッペルやスタニスラフスキー、カチャロフその他昔から深い繋りを作品と持っていた俳優が出演するだろうと思っていた。ところが、クニッペルは出なかった。スタニスラフスキーも出なかった。他の誰も。――俳優はすべて、方々の劇・・・ 宮本百合子 「シナーニ書店のベンチ」
・・・初め各々が演劇好きで倶楽部の演劇研究部のメンバーとなり、勉強して祭の日に倶楽部の芝居へ出演したりしていた。ところが段々専門化して来て色んな工場から何人かそういう連中が集まり、コンムーナで話すようになった。MOSPS劇場の教育部に指導されてメ・・・ 宮本百合子 「ソヴェト「劇場労働青年」」
・・・に出演したメイエルホリド劇場の若手の俳優たちが、モスクワ芸術座の俳優のように鮮明な発音で朗読法をこなすまでには、大分時間がかかるという感じだった。 詩劇として、ベズィメンスキーのこの制作は、ソヴェトのプロレタリア文学の問題として各方面で・・・ 宮本百合子 「ソヴェトの芝居」
・・・という映画も、バーバラ・スタンウィックの出演しているもう一つのも、どっちも背景に欧州大戦時代をとりいれた作品であった。多喜子は並んでいる参吉に、「何だか古くさいわね」と囁いた。「うん」 場内が明るくなって、間奏楽の響いているとき・・・ 宮本百合子 「二人いるとき」
出典:青空文庫