・・・此処にそれ、はじめの一冊だけ、ちょっと表紙に竹箆の折返しの跡をつけた、古本の出物がある。定価から五銭引いて、丁どに鍔を合わせて置く。で、孫に持って行って遣るが可い、と捌きを付けた。国貞の画が雑と二百枚、辛うじてこの四冊の、しかも古本と代った・・・ 泉鏡花 「国貞えがく」
・・・ カフェを経営することに決め、翌日早速周旋屋を覗きまわって、カフェの出物を探した。なかなか探せぬと思っていたところ、いくらでも売物があり、盛業中のものもじゃんじゃん売りに出ているくらいで、これではカフェ商売の内幕もなかなか楽ではなさそう・・・ 織田作之助 「夫婦善哉」
・・・中には些性が悪くて、骨董商の鼻毛を抜いていわゆる掘出物をする気になっている者もある。骨董商はちょっと取片付けて澄ましているものだが、それだって何も慈善事業で店を開いている訳ではない、その道に年期を入れて資本を入れて、それで妻子を過しているの・・・ 幸田露伴 「骨董」
・・・こういう書物は縁のない方であるが、何か理化学方面に関する掘出物でもあるかと思ったからである。 春信の贋物をかいたという事で評判のよくない人ではあるが、随筆を読んでみると色々面白い事が書いてある。ともかくも「頭の自由な人」ではあったらしい・・・ 寺田寅彦 「断片(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
出典:青空文庫