・・・振り向いて西の空を仰ぐと阿蘇の分派の一峰の右に新月がこの窪地一帯の村落を我物顔に澄んで蒼味がかった水のような光を放っている。二人は気がついてすぐ頭の上を仰ぐと、昼間は真っ白に立ちのぼる噴煙が月の光を受けて灰色に染まって碧瑠璃の大空を衝いてい・・・ 国木田独歩 「忘れえぬ人々」
・・・それだから自分の案では、中等学校の三年頃からそれぞれの方面に分派させるがいいと思う。その前に教える事は極めて基礎的なところだけを、偏しない骨の折れない程度に止めた方がいい。それでもし生徒が文学的の傾向があるなら、それにはラテン、グリーキも十・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
・・・のみならずおのおの独立の名称を有っている科学の分派、例えば物理とか化学とかいうものの中にまた色々の部門がおのおの非常な発達をしている。たとえ日進月歩の新知識を統括する方則や原理の数はそれほど増さないとしても、これによって概括せらるべき事実の・・・ 寺田寅彦 「科学上における権威の価値と弊害」
・・・しかし自分の見るところでは文学のこの一分派にはかなり広い未来の天地があるような気がするのである。 科学者のに限らず、一般に随筆と称するものは従来文学の世界の片すみの塵塚のかたわらにかすかな存在を認められていたようである。現在でも月刊雑誌・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・この天成の妙機を捨てる代わりに、これを活用してその長所を発揮するような、そういう「科学の分派」を設立することは不可能であろうか。こういう疑問を起こさないではいられないほどにわれわれの感覚器官はその機構の巧妙さによってわれわれを誘惑するのであ・・・ 寺田寅彦 「感覚と科学」
・・・ もし現在の物質科学が発達の極に達して、あらゆる分派の間の完全な融合が成立する日があるとすれば、その時には地震というものの科学的な概念は一つ、而してただ一つの定まったものでなければならないはずだと思われる。しかし現在のように科学というも・・・ 寺田寅彦 「地震雑感」
・・・そういう六かしい問題は別として、現在日本の画界における両つの分派の作品を対照した時に感ずるあるデリケートな差別の裏面には、両派の画家の本来の素質のみならず、画家の日常生活における精神的栄養の摂取し方の差違が隠れているのではないかと疑われる。・・・ 寺田寅彦 「帝展を見ざるの記」
・・・これらの線が一度はどこかの郵便局へ束になって集められ、そこで選り分けられて、幾筋かの鉄道線路に流れ込み、それが途中で次々に分派して国の隅々まで拡がってゆく。中には遠く大洋を越えて西洋の光の都、南洋のヤシの葉蔭に運ばれる。その数々の線の一つず・・・ 寺田寅彦 「年賀状」
・・・また他の分派は中心にかたい背骨ができて、そのいちばん発展したのが人間だという事である。私にはこの説がどれだけほんとうだかわからない。しかしいずれにしても昆虫の世界に行なわれると同じような闘争の魂があらゆる有脊椎動物を伝わって来て、最後の人間・・・ 寺田寅彦 「簔虫と蜘蛛」
・・・然ルガ故ニ婢モ亦開店ノ当初ニ在リテハ浅草ノ本店ヨリ分派セラレシモノ尠シトナサヾリキ。今ヤ日ニ従テ新陳代謝シ四方ヨリ風ヲ臨ンデ集リ来レルモノ多シ。曾テ都下狭斜ノ巷ニ在テ左褄ヲ取リシモノ亦無シトセズト。予之ヲ聞イテ愕然タリ。其ノ故ハ何ゾヤ。疇昔・・・ 永井荷風 「申訳」
出典:青空文庫