・・・労銀、利子、企業所得……「一家の管理。家風、主婦の心得、勤勉と節倹、交際、趣味、……」 たね子はがっかりして本を投げ出し、大きい樅の鏡台の前へ髪を結いに立って行った。が、洋食の食べかただけはどうしても気にかかってならなかった。……・・・ 芥川竜之介 「たね子の憂鬱」
・・・小作料は三年ごとに書換えの一反歩二円二十銭である事、滞納には年二割五分の利子を付する事、村税は小作に割宛てる事、仁右衛門の小屋は前の小作から十五円で買ってあるのだから来年中に償還すべき事、作跡は馬耕して置くべき事、亜麻は貸付地積の五分の一以・・・ 有島武郎 「カインの末裔」
・・・それから開墾当時の地価と、今日の地価との大きな相違はどうして起こってきたかと考えてみると、それはもちろん私の父の勤労や投入資金の利子やが計上された結果として、価格の高まったことになったには違いありませんが、そればかりが唯一の原因と考えるのは・・・ 有島武郎 「小作人への告別」
・・・合法的に店を張っているには相違ないけれど、苦しい中から、利子を収めて、さらに品物を受出すということが、すでにそうした境遇に於かれている者には、殆んど不可能のことでした。不意に、沢山の金がはいるようなことでもないかぎり、欠乏に悩んでいる者が、・・・ 小川未明 「貧乏線に終始して」
・・・そのとき預ったのが利子もはいってまへんので、もう流れてまんねんけど、何やこうお君はんの家では大切な品もんや思いまんので、相談によっては何せんこともおまへん、と、こない思いましてな。いずれ電車会社の……」 慰謝金を少くも千円と見こんで、こ・・・ 織田作之助 「雨」
・・・千円でも二千円でも、あんたの要るだけの金は無利子の期間なしで貸すから、何か商売する気はないかと、事情を訊くなり、早速言ってくれた。地獄で仏とはこのことや、蝶子は泪が出て改めて、金八が身につけるものを片ッ端から褒めた。「何商売がよろしおまっし・・・ 織田作之助 「夫婦善哉」
・・・それに彼は、いくらか小金を溜めて、一割五分の利子で村の誰れ彼れに貸付けたりしていた。ついすると、小作料を差押えるにもそれが無いかも知れない小作人とは、彼は類を異にしていた。けれども、一家が揃って慾ばりで、宇一はなお金を溜るために健二などゝ一・・・ 黒島伝治 「豚群」
・・・「年貢の代りに信用組合の利子がいら。」「いゝや、自分の田じゃなけりゃどうならん。」と、母は繰りかえした。「やれ取り上げるの、年貢をあげるので、すったもんだ云わんだけでも、なんぼよけりゃ。ずっと、こっちの気持が落ちついて居れるがな。」・・・ 黒島伝治 「浮動する地価」
・・・山も田も抵当に入り、借金の利子は彼等を絶えず追っかけてきた。最後に残してあった屋敷と、附近の畑まで、清三の病気のために書き入れなければならなくなった。 清三は卒業前に就職口が決定する筈だった。両人は、息子からの知らせが来るのを楽しみに待・・・ 黒島伝治 「老夫婦」
・・・今ではブルジョア化粧品屋でユロ男爵の息子にその一人娘を縁づかせている五十男のクルベルが、安芝居のような身ぶり沢山で、而も婿の生計を支えてやらなくてはならぬ愚痴を並べ、借金の話、娘の持参金についての利子勘定のまくし立てるような計算と全く渾然結・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
出典:青空文庫