・・・よしんば一作家がそれに充分の芸術的力量を持ち、素材も持ち、歴史の見通しを持っているとして尚その可能を疑わせる特別な事情が今日の日本に支配している。単純に個々の作家の才能の力で解決し突破することの出来ない柵がある。客観小説を提唱する人々が今日・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・ 個々の作品は常にその積極的な成果と作者の力量に応じての消極面を持つと見るのが自然であり、一つ一つの作品は、欠点や未熟さにかかわらず、何らかの意味でその積極面によって生きとおすものである。ある一つの作品が初め作者によって意企せられた効果・・・ 宮本百合子 「作家への課題」
・・・人間の苦労は老衰の疲労に伴なう苦労ではなく、まだ訓練されていないこれから増進する力量に伴なう苦労である。吾々が本書で試みたように全歴史を一個の過程として眺めるとき、すなわち生命の着々たる向上的闘争を見るとき、その時こそ吾々は、現在の希望や危・・・ 宮本百合子 「世代の価値」
・・・それ故、父が如何程金を積もうとも、娘や息子は、自分の力量相当の働によって生活して行くのを当然であると思う。又、日本の従来の如く、父の没後は長子が戸主となって、事業から交際まで主となって引継ぎをしなければならないのとは異い、幾人か同胞があれば・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・文学者の力量は文学者として十分生活上の経済的基盤を与えるし、そのことは作家の思想性をも確立させ、強大な出版企業に対抗するだけの社会性を身にそなえたものとして来ているかと思える。 日本の作家の事情は、少くともこれまでは、中途半端であった。・・・ 宮本百合子 「春桃」
・・・が栄さんの作家としての力量を動かしがたいものとして示した。 作品集「暦」の出版記念会が一九四〇年の春にもたれたとき、テーブル・スピーチに立った人々は、云い合わせたように、壺井栄さんの温く明るく生活の営みを愛して生きぬいてゆく人間としての・・・ 宮本百合子 「壺井栄作品集『暦』解説」
・・・ 有馬さとえ氏その他、それぞれの力量を示す作品を出品しているのではあろうが、面白かったのは版画の長谷川多都子氏の作ぐらいであった。日本画では理解が皮相的な憾みはあるが「煙草売る店」青柳喜美子、「夕」三谷十糸子、「娘たち」森田沙夷などは、・・・ 宮本百合子 「帝展を観ての感想」
・・・かりに優秀な人間的力量にめぐまれたある奴隷が、奴隷として許された限界を突破して――主人の繁栄と利益のためにだけ献身するという目的を破って、自身の解放のためにその才能を活躍させるとしたら、奴隷所有者の不安はいかばかりだろう。奴隷の能力は、公平・・・ 宮本百合子 「なぜ、それはそうであったか」
・・・すべての文学は戦争鼓吹の文学でなければならなかったが、戦争そのものが非人間的な本質だったから従軍作家の誰の書くものもそれぞれの作家の文学的力量を生かしきらず、その人びとの人間の味さえも殺した。私小説にゆきづまり、日本文学の社会性のせまさ、弱・・・ 宮本百合子 「年譜」
・・・当時まだ二十歳で、初めて大学生になったわたくしなどには、全然事情は解らなかったが、専門の哲学者の間では、あるいは少なくとも一部の哲学者の間では、先生の力量はすでに認められていたのであろう。哲学者の先生に対する態度にしても、少し後のことではあ・・・ 和辻哲郎 「初めて西田幾多郎の名を聞いたころ」
出典:青空文庫