・・・私は暫く考えていましたが、願わくば臨終正念を持たしてやりたいと思いまして「もうお前の息苦しさを助ける手当はこれで凡て仕尽してある。是迄しても楽にならぬでは仕方がない。然し、まだ悟りと言うものが残っている。若し幸にして悟れたら其の苦痛は無くな・・・ 梶井久 「臨終まで」
・・・ 親父は急に箸を立てて、にらみつけて、「だから、なお助けるのだ。」 弁公はまたもすなおにうなずいた。出がけに文公を揺り起こして、「オイちょっと起きねえ、これから、おいらは仕事に出るが、兄きは一日休むがいい。飯もたいてあるから・・・ 国木田独歩 「窮死」
・・・「俺れが満洲へ来とったって、俺れの一家を助けるどころか家賃を払わなきゃ、住むこたならねえと云ってるんだ。×のためだなんてぬかしやがって、支那を×ることや、ロシアを××ることにゃ、××てあげて××やがって、俺れらから取るものは一文も負けず・・・ 黒島伝治 「前哨」
・・・「できるだけとうさんも、お前を助けるよ。」と、また私は言った。「そのかわり、太郎さんと二人で働くんだぜ。」「僕もよく考えてみよう。こうして東京にぐずぐずしていたってもしかたがない。」 と、次郎は沈思するように答えて、ややしばらく・・・ 島崎藤村 「嵐」
・・・父さんはほかに手伝いのしようもないから、お前の耕作を助ける代わりとしてこれを送ります。この金を預けたら毎年三百円ほどの余裕ができましょう。それでお前の農家の経済を補って行くことにしてください。 これはただ金で父さんからもらったと考えずに・・・ 島崎藤村 「分配」
・・・時の権力に反抗して、弱きを助ける。当時のフランスの詩人なんてのも、たいていもうそんなものだったのでしょう。日本の江戸時代の男伊達とかいうものに、ちょっと似ているところがあったようです。」「なんて事だい、」とかっぽれは噴き出して、「それじ・・・ 太宰治 「十五年間」
・・・「ラプンツェル、こんどは私が君を助ける番だ。いや一生、君を助けさせておくれ。」王子は、もはや二十歳です。とても、たのもしげに見えました。ラプンツェルは、幽かに笑って首肯きました。 二人は、森を抜け出し、婆さんの気づかぬうちにと急ぎに・・・ 太宰治 「ろまん燈籠」
・・・そう簡単にはゆかないまでも、少なくもこういうふうに考えてみることによってこの二つの映画の了解を助けることにはなるであろうと思われる。 寺田寅彦 「映画雑感(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
・・・ 手ぬぐい一筋でも箸一本でも物は使いよう次第で人を殺すこともできれば人を助けることもできるのは言うまでもないことである。 おとぎ話というものは、だいたいにおいて人間世界の事実とその方則とを特殊な譬喩の形式によって表現したものである。・・・ 寺田寅彦 「さるかに合戦と桃太郎」
・・・有名な書物を書き有名な絵をかいた偉大な日本人は、自分らを助ける協会などを要しなかった。彼らは孤独で労作したのだ。……日本の会合は時間の有害な浪費であると自分は思うと言った。……研究をさらに進めるため洋行する日本の青年学者を思ってみよ。……と・・・ 寺田寅彦 「人の言葉――自分の言葉」
出典:青空文庫