・・・には、子供が大人の生活に混ってくる道どりやそこでの日常的な労作への結合の必要を暗示している作者の目がある。この作者としてこの「村の月夜」は第一歩の仕事であり、作品の内容も従来のお伽噺とは全く異った現実日常生活からの面白いお話への試みが示され・・・ 宮本百合子 「子供のために書く母たち」
・・・名状し難い献身、堅忍、労作、巨大な客観的な見とおしとそれを支えるに足る人間情熱の総量の上に、徐々に推しすすめられて来ている。決して反復されることない個人の全生涯の運命と歴史の運命とは、ここに於て無限の複雑さ、真実さをもって交錯しあっているの・・・ 宮本百合子 「こわれた鏡」
・・・ 能動精神の提唱から派生した以上のような諸問題が、夥しい作家、評論家によって活溌に、然し堂々めぐりの形をもって論ぜられている一方、島崎藤村氏は七年に亙る労作「夜明け前」をこの年の秋に完成した。「夜明け前」の持つ文学上の記念碑的価値は・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・実際に著者は、この第二篇で追究した諸点を文芸評論家としての自身の評価のよりどころ、評価の方法として、他の諸篇にふくまれた労作をなしとげている。文芸思潮史としてこの一巻をまとめることを念願したとあとがきに書かれているが、批評及び文芸思潮史の方・・・ 宮本百合子 「作家に語りかける言葉」
・・・その作家の人生に通じるテーマを見いだしたとき、その作家の全存在を集中する精気のこった活動としてモティーヴがはっきり把えられ、労作がはじまるのであると思う。 世界観は、鋭く美しい活きた社会とその歴史にたいする眼として紹介されなかった。日本・・・ 宮本百合子 「作家の経験」
・・・ ルソウは、その文筆的労作の中で、人間を自然の一部としてみ、神話を自然からぬぎすてさせた先達の一人であったが、彼の時代においては、自然を変革してゆこうとする人間の積極的な科学的な社会性の面から自然にとりあげられ得なかった。神学的、宮廷的・・・ 宮本百合子 「自然描写における社会性について」
・・・これまでの日本の映画音楽がよくなかったので、この二つには特に新進の作曲家たちの労作を得た。「所期の成果をおさめて居りますかどうかは、専門家の方々の御意見と海外の観衆の批判にまたなければならないところであります」そういう意味の言葉であった・・・ 宮本百合子 「実感への求め」
・・・ 文学の仕事と文学を職業とするということの間に矛盾があってはならないわけであるけれども、いつしか文学を職業とする方へ主軸が傾きがちで、職業的労作の単純化、統一化、能率化のためには、真の文学精神が回避出来ない筈の両性の波瀾をも、わが家の中・・・ 宮本百合子 「職業のふしぎ」
小さい年表をこしらえる仕事がきっかけとなって、先頃古い出版年鑑をくりかえして見た。直接には、婦人がどんな文学的労作を出版しているかということを知りたかったのだけれども、年鑑をくってゆくうちに、様々の感想にうたれた。 大・・・ 宮本百合子 「女性の書く本」
・・・ 私の知人にも理解のいい頭と、感激の強い心臓と、よく立つ筆とを持ちながら、まるで労作を発表しようとしない人がある。彼は今生きることの苦しさに圧倒せられて自分のようなものは生きる値打ちもないとさえ思っている。しかしそれは彼の根が一つの地殻・・・ 和辻哲郎 「樹の根」
出典:青空文庫