・・・ ユリアは労働者の立てて貰う小家の一つに住んでいる。その日は日曜日の午前で天気が好かった。ユリアはやはり昔の色の蒼い、娘らしい顔附をしている。ただ少し年を取っただけである。ツァウォツキイが来た時、ユリアは平屋の窓の傍で縫物をしていた。窓・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「破落戸の昇天」
・・・ と紹介した。 労働服の無口で堅固な伊豆に梶は礼をのべる気持になった。栖方は酒を注ぐ手伝いの知人の娘に軽い冗談を云ったとき、親しい応酬をしながらも、娘は二十一歳の博士の栖方の前では顔を赧らめ、立居に落ち付きを無くしていた。いつも両腕・・・ 横光利一 「微笑」
・・・そうして報酬とまるで釣合わないような苦しい労働である場合でも、病気とあれば、黙々として自分の任務を果たした。父が患者に対して愛嬌をふりまくとか、患者を心服せしめるためにホラを吹くとか、そういう類の外交術をやっている場面はかつて見たことがない・・・ 和辻哲郎 「蝸牛の角」
出典:青空文庫