・・・らしい愉悦と矜持とを抱いて、余念もなしに碩学の講義を聴いたり、豊富な図書館に入ったり、雑事に侵されない朝夕の時間の中に身を置いて十分に勉強することの出来るのを何よりも嬉しいことに思いながら、いわゆる「勉学の佳趣」に浸り得ることを満足に感じて・・・ 幸田露伴 「観画談」
・・・秀才、はざま貫一、勉学を廃止して、ゆたかな金貸し業をこころざしたというテエマは、これは今のかずかずの新聞小説よりも、いっそう切実なる世の中の断面を見せて呉れる。 私、いま、自らすすんで、君がかなしき藁半紙に、わが心臓つかみ出したる詩を、・・・ 太宰治 「もの思う葦」
・・・ 作人はその間に、魯迅と一緒にあずけられた家から祖父の妾の家へ移って、勉学のかたわら獄舎の祖父の面会に行ったり、「親戚の少女と淡い、だが終生忘られない初恋を楽しんだりしていた。」 魯迅と作人との少年時代の思い出は、このように異った二・・・ 宮本百合子 「兄と弟」
・・・これからの幾波瀾のなかで、あなたの鉛筆、そしてわたしたちすべてのものの鉛筆が、真に懐中するに足りるものであるためには、どれだけかの勉学と堅持とがいることでしょう。詩人よ、すぐれた天質を高めよ。詩が理性のうたであるときいて、しりごみした旧い詩・・・ 宮本百合子 「鉛筆の詩人へ」
・・・人柄のよさというなかに、大町さんの勉学ぶりがある。これは将来の発展のために、たかく評価されなければならない点だとおもう。民衆の歴史の刻々の推進と、その前衛としてのわれらの党がおうている任務は、きわめて洋々たる前途をもっている。たっぷりした実・・・ 宮本百合子 「大町米子さんのこと」
・・・井上秀子女史が戦時中日本女子大学校長としてどのように熱心に戦争遂行に協力したかは当時の学生たちが、自分たちの経験した過労、栄養不良、勉学不能によって骨の髄まで知りつくしていることだろうと思う。そういう校長を絶対勢力として戴いて、どうして教育・・・ 宮本百合子 「女の手帖」
・・・自殺と直感した、といわれたときこそその人の妻らしい悲しみのありかたとして、すべての人にも肯かれたのに、いつか、他殺説を固執するようになった夫人の態度。勉学ざかりの少年、青年である子息たちが、色をなして自殺説を否定しはじめたという心理。それら・・・ 宮本百合子 「権力の悲劇」
・・・一九四九年の民主主義文学の運動は、このための自己批判や勉学や不快な圧迫との抵抗のために各人が各様に異常な精力を費すこととなった。 文学における政治の優位性という理解は、正しく具体的にされる必要に迫られた。なぜならば、政治が文学に優位する・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・つまり、勤労者として生き、社会に学び、この作者ぐらい現実の解明力としての勉学の意味も理解していると、いつか、モティーヴそのものの社会性が深まりひろがって、たとえば「町工場」で描かれているような「貧困」そのものにたいしてもおのずから私という主・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・まじめな若い精神は、はっきりそういう周囲と抵抗して、経済的な独立とそれと並行する勉学の可能をさがして、苦闘しているのである。ことしは、就職難がいちじるしい。現在、さまざまの理由から労働法規を無視して失業させられている男女は、新しい何かの職業・・・ 宮本百合子 「戦争はわたしたちからすべてを奪う」
出典:青空文庫