・・・ 十五「起きようと寝ようと勝手次第、お飯を食べるなら、冷飯があるから茶漬にしてやらっせえ、水を一手桶汲んであら、可いか、そしてまあ緩々と思案をするだ。 思案をするじゃが、短気な方へ向くめえよ、後生だから一番方・・・ 泉鏡花 「葛飾砂子」
・・・ しかし一通りの山賊でない、図太い山賊で、かの字港まで十人が勝手次第にしゃべって、随分やかましかった。僕は一人、仲間外れにされて黙って、みんなの後からみんなのしゃべるのを聞きながら歩いた。 大概は猟の話であった。そしておもに手柄話か・・・ 国木田独歩 「鹿狩り」
・・・の漫画の長所は、音楽との対位法的モンタージュを行なう場合における視像のエキスプレッションが自由自在であって、画像の運動は pp まで任意に大なる変化をすることができ、クレッセンドー、ディミニゥエンドー勝手次第なことである。顔じゅういっぱいに・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・この舞台に出ている役者が勝手次第に働けば場面は分裂して統一がなくなってしまうのである。 しかしいわゆる客観的な物語や写生文の大部分の主資料となるものは人間である。すなわち個々の能知者を捕えてこれを所知者として取扱おうというのである。この・・・ 寺田寅彦 「文学の中の科学的要素」
・・・それを便宜のために抽象して離してしまって広い空間を勝手次第に抛り出すと、無辺際のうちにぽつりぽつりと物が散点しているような心持ちになります。もっともこの空間論も大分難物のようで、ニュートンと云う人は空間は客観的に存在していると主張したそうで・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・無精な余は印気がなくなると、勝手次第に机の上にある何んな印気でも構わずにペリカンの腹の中へ注ぎ込んだ。又ブリュー・ブラックの性来嫌な余は、わざわざセピヤ色の墨を買って来て、遠慮なくペリカンの口を割って呑ました。其上無経験な余は如何にペリカン・・・ 夏目漱石 「余と万年筆」
・・・の世に無智無学の蛮民等が、其目に触れ心に感ずる所を何の根拠もなく二様に区別して、之に附するに漠然たる陰陽の名を以てしたるまでのことにして、人間の男女も端なく其名籍の中に計えられ、男は陽性、女は陰性と、勝手次第に鑑定せられたるのみ。其趣は西洋・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・田舎の小民の子が粗食大食勝手次第にして却て健康なる者多し。京都大阪辺の富豪家に虚弱なる子あれば、之を八瀬大原の民家に託して養育する者ありと言う。田舎の食物の粗なるは勿論のことなれども、田舎の物を食して田舎風に運動遊戯すれば、身体に利する所は・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・ 今日にいたるまで、余が衣食住に苦しまずして独立勝手次第の生活をなし、なおその上に私塾維持のためにも、社員とともに多少の金を費したるその出処を尋ぬれば、商売に儲けたるに非ず、月給に貰うたるに非ず、いわんや祖先の遺産においてをや。本来無一・・・ 福沢諭吉 「成学即身実業の説、学生諸氏に告ぐ」
・・・れば、その風はおのずから他種族にも波及し、士農工商、ともに家を重んじて、権力はもっぱら長男に帰し、長少の序も紊れざるが如くに見えしものが、近年にいたりてはいわゆる腕前の世となり、才力さえあれば立身出世勝手次第にして、長兄愚にして貧なれば、阿・・・ 福沢諭吉 「徳育如何」
出典:青空文庫