・・・ 宗吉は、一坂戻って、段々にちょっと区劃のある、すぐに手を立てたように石坂がまた急になる、平面な処で、銀杏の葉はまだ浅し、樅、榎の梢は遠し、楯に取るべき蔭もなしに、崕の溝端に真俯向けになって、生れてはじめて、許されない禁断の果を、相馬の・・・ 泉鏡花 「売色鴨南蛮」
・・・上げ潮で河水が多少水口から突上るところへ更に雨が強ければ、立ちしか間にこの一区劃内に湛えてしまう。自分は水の心配をするたびに、ここの工事をやった人の、馬鹿馬鹿しきまで実務に不忠実な事を呆れるのである。 大洪水は別として、排水の装置が実際・・・ 伊藤左千夫 「水害雑録」
・・・自分はなお奥の方へと彼らの間を縫って往くと、船首水雷室の前に一小区画がある、そこに七、八名の水兵が、他の仲間と離れて一団体をなし、飲んでいた。 わが水兵はいかに酔っていても長官に対する敬礼は忘れない。彼らは自分を見るや一同起立して敬礼を・・・ 国木田独歩 「遺言」
・・・「それから北の方へ防風林を一区劃、なるべくは林を多く取って置くことにしました。それから水の澄み渡った小川がこの防風林の右の方からうねり出て屋敷の前を流れる。無論この川で家鴨や鵞鳥がその紫の羽や真白な背を浮べてるんですよ。この川に三寸厚サ・・・ 国木田独歩 「牛肉と馬鈴薯」
・・・畑はおもに高台にある、高台は林と畑とでさまざまの区劃をなしている。畑はすなわち野である。されば林とても数里にわたるものなく否、おそらく一里にわたるものもあるまい、畑とても一眸数里に続くものはなく一座の林の周囲は畑、一頃の畑の三方は林、という・・・ 国木田独歩 「武蔵野」
・・・釈迦の予言によれば、釈迦滅後、五百歳ずつを一区画として、正法千年、像法千年を経て第五の末法の五百年に、「我が法の中に於て、闘諍言訟して白法隠没せん」時ひとり大白法たる法華経を留めて「閻浮提に広宣流布して断絶せしむることなし」と録されてある。・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・ 過去の面影と現在の苦痛不安とが、はっきりと区画を立てておりながら、しかもそれがすれすれにすりよった。銃が重い、背嚢が重い、脚が重い。腰から下は他人のようで、自分で歩いているのかいないのか、それすらはっきりとはわからぬ。 褐色の道路・・・ 田山花袋 「一兵卒」
・・・ 東京の行政区劃だけは脱け出しても東京の匂いはなかなか脱けない。それでも田無町辺からは昔の街道の面影が保存されているらしい。いくつとなく踏切番のいない鉄路を横切るのは不安である。突然路が右へ曲ると途方もない広い新道が村山瀦水池のある丘陵・・・ 寺田寅彦 「異質触媒作用」
・・・ ただ、一番始末のいい場合は、学問の本山であるところの西洋の第一流の大家達の統括の下に開拓され発達させられた一つの明確な区劃内に限られた部門の中で、かの地の誰やかれが既にかなりまでつつき廻した問題の一方面に若干の確実な貢献をしたというよ・・・ 寺田寅彦 「学位について」
・・・国郡のごとき行政区画のできるはるかに前から、火山の名が存し、それが顕著な目標として国郡名に適用されたであろうとは思われるが、これも確証することはむつかしい。 山の名の起原についてはそれぞれいろいろの伝説があり、また北海道の山名などではい・・・ 寺田寅彦 「火山の名について」
出典:青空文庫