・・・能く見ると余り好い男振ではなかったが、この“Sneer”が髯のない細面に漲ると俄に活き活きと引立って来て、人に由ては小憎らしくも思い、気障にも見えたろうが、緑雨の千両は実にこの“Sneer”であった。ドチラかというと寡言の方で、眼と唇辺に冷・・・ 内田魯庵 「斎藤緑雨」
・・・というものは実は山王台で種々の空想を描いた時、もし千両も拾ったらなど、恥かしい事だが考がえたからで、それが事実となったらしいからである。革包は容易く開いた。 紙幣の束が三ツ、他に書類などが入っている。星光にすかしてこれを見た時、その時自・・・ 国木田独歩 「酒中日記」
・・・さむらいはふところから白いたすきを取り出して、たちまち十字にたすきをかけ、ごわりと袴のもも立ちを取り、とんとんとんと土手の方へ走りましたが、ちょっとかがんで土手のかげから、千両ばこを一つ持って参りました。 ははあ、こいつはきっと泥棒だ、・・・ 宮沢賢治 「とっこべとら子」
出典:青空文庫