・・・塵埃が積る時分にゃあ掘出し気のある半可通が、時代のついてるところが有り難えなんてえんで買って行くか知れねえ、ハハハ。白丁奴軽くなったナ。「ほんとに人を馬鹿にしてるね。わたしを何だとおもっておいでのだエ、こっちは馬鹿なら馬鹿なりに気を揉ん・・・ 幸田露伴 「貧乏」
・・・サロンは、諸外国に於いて文芸の発祥地だったではないか、などと言って私に食ってかかる半可通が、私のいうサロンなのだ。世に、半可通ほどおそろしいものは無い。こいつらは、十年前に覚えた定義を、そのまま暗記しているだけだ。そうして新しい現実をその一・・・ 太宰治 「十五年間」
・・・評論家には、このような謂わば「半可通」が多いので、胸がむかつく。墨絵の美しさがわからなければ、高尚な芸術を解していないということだ、とでも思っているのであろうか。光琳の極彩色は、高尚な芸術でないと思っているのであろうか。渡辺崋山の絵だって、・・・ 太宰治 「如是我聞」
・・・似非風流や半可通やスノビズムの滑稽、あまりに興多からんことを求めて却って興をさます悲喜劇、そういったような題材のものの多くでは、これをそのままに現代に移しても全くそのままに適合するような実例を発見するであろう。十四世紀の日本人に比べて二十世・・・ 寺田寅彦 「徒然草の鑑賞」
・・・彼というは堂々たる現代文士の一人、但し人の知らない別号を珍々先生という半可通である。かくして先生は現代の生存競争に負けないため、現代の人たちのする事は善悪無差別に一通りは心得ていようと努めた。その代り、そうするには何処か人知れぬ心の隠家を求・・・ 永井荷風 「妾宅」
・・・バイロイトの劇場が開かれた時だって、集まった人の多数はなり金や道楽者や半可通であったそうだ。本国ドイツでファウストを興行したって、見物が皆ファウストを解する人から成り立ってはいない。分からず屋はいつも多数に相違無い。それが日本で興行せられる・・・ 森鴎外 「訳本ファウストについて」
出典:青空文庫