・・・夏中一つも実らなかった南瓜が、その発育不十分な、他の十分の一もないような小さな葉を、青々と茂らせて、それにふさわしい朝顔位の花をたくさんつけて、せい一杯の努力をしている。もう九月だのに。種の保存本能!―― 私は高い窓の鉄棒に掴まりながら・・・ 葉山嘉樹 「牢獄の半日」
・・・祖母の云うのはみんな北海道開拓当時のことらしくて熊だのアイヌだの南瓜の飯や玉蜀黍の団子やいまとはよほどちがうだろうと思われた。今日学校へ行って武田先生へ行くと云って届けたら先生も大へんよろこんだ。もうあと二人足りないけれども定員を超えたこと・・・ 宮沢賢治 「或る農学生の日誌」
・・・その為に作った南瓜や蕪菁もたべる。ごらんなさい。人間が自分のたべる穀物や野菜の代りに家畜の喰べるものを作っているのです。牛一頭を養うには八エーカーの牧草地が要ります。そこに一番計算の早い小麦を作って見ましょうか。十人の人の一年の食糧が毎年と・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・ 関東の農村は、汽車でとおっても、雑木林をぬけたところには畑があり、そこでヒエが穂を出しているかと思うと、南瓜畑があり、田圃の上にはとうもろこしのひろい葉がゆれている。草堤に萩が咲いていたりもする。 ところが秋田から山形沿線の稲田の・・・ 宮本百合子 「青田は果なし」
・・・九尺に足りないその裏通りのあちらの塀から這い出した南瓜の蔓と、こちらの塀から伸びた南瓜の蔓とを、どこの若い人のしたことか、せまい通りの頭の上で結び合わして、アーチにしてあった。大きい葉の間に実にはならないながら黄色の濃い花が点々と咲く南瓜の・・・ 宮本百合子 「田端の汽車そのほか」
・・・と言い放って、境の生垣の蔭へ南瓜に似た首を引込めた。結末は意味の振っている割に、声に力がなかった。「旦那さん。御膳が出来ましたが。」 婆あさんに呼ばれて、石田は朝飯を食いに座敷へ戻った。給仕をしながら婆あさんが、南裏の上さんは評判の・・・ 森鴎外 「鶏」
出典:青空文庫