・・・(八兵衛の事蹟については某の著わした『天下之伊藤八兵衛』という単行の伝記がある、また『太陽』の第一号に依田学海の「伊藤八兵衛伝」が載っておる。実業界に徳望高い某子爵は素七 小林城三 椿岳は晩年には世間離れした奇人で名を売った・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・を本当に読んだのは「夫婦善哉」を単行本にしてからである。私のスタイルが西鶴に似ている旨、その単行本を読んだある人に注意されて、かつて「雨」の形式で「一代男」をひそかに考えていたことはあるにせよ、意外かつ嬉しかった。その頃まだ「一代男」すら通・・・ 織田作之助 「わが文学修業」
・・・という雑誌に発表されたかは、一切不明であるという。のち「蛙」という単行本に、ひょいと顔を出して来たのである。鴎外全集の編纂者も、ずいぶん尋ねまわられた様子であるが、「どうしても分らない。御垂教を得れば幸甚である。」と巻末に附記して在る。私が・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・この作品は三百枚くらいで完成する筈であるが、雑誌に分載するような事はせず、いきなり単行本として或る出版社から発売される事になっているので、すでに少からぬ金額の前借もしてしまっているのであるから、この原稿は、もはや私のものではないのだ。けれど・・・ 太宰治 「鉄面皮」
・・・その他にも、私には三つ、四つ、そういう未発表のままの、謂わば筐底深く秘めたる作品があったので、おととしの早春、それらを一纏めにして、いきなり単行本として出版したのである。まずしい創作集ではあったが、私には、いまでも多少の愛着があるのである。・・・ 太宰治 「ろまん燈籠」
・・・ 自分が既に雑誌へ出したものを再び単行本の体裁として公にする以上は、之を公にする丈の価値があると云う意味に解釈されるかも知れぬ。「吾輩は猫である」が果してそれ丈の価値があるかないかは著者の分として言うべき限りでないと思う。ただ自分の書い・・・ 夏目漱石 「『吾輩は猫である』上篇自序」
・・・そして、その疑問は、その単行本の後書きを読むと一層かき立てられる。「愛と死、之は誰もが一度は通らねばならない。人間が愛するものを持つことが出来ず、又愛するものが死んでも平気でいられるように出来ていたら、人生はうるおいのないものになるだろう。・・・ 宮本百合子 「「愛と死」」
・・・ この選集第十一巻には、四十二篇の文芸評論があつめられているが、特徴とするところは、これらの四十二篇のうち、二十七篇が、はじめてここに単行本としてまとめられたということである。久しい間、新聞や雑誌からの切りぬきのまま紙ばさみの間に保存さ・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十一巻)」
・・・作品の市場としての今日の新聞雑誌、単行本出版のことは、その中へ文壇を出た作家というものを吸収するどのような能力を持っているのであろう。文壇を出るという言葉は成行として、出てから何処へか行くという感じを私たちに抱かせるのであるが、政府は作家の・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・が、引続いて起った長篇小説への要求、単行本発表への欲求の背景となった経済的な理由、発表場面狭隘の苦痛等と照らし合わせて観察すると、先ず横光氏によって叫ばれた純文学であって通俗小説であるという小説への転身宣言の暗黙のモメントとして、その市場を・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
出典:青空文庫