・・・戯にも、つけまわしている様子を、そんな事でも聞かせましたら、夜が寝られぬほど心持を悪くするだろうと思いますから、私もうっかりしゃべりませんでございますから、あの女はただ汚い変な乞食、親仁、あてにならぬ卜者を、愚痴無智の者が獣を拝む位な信心を・・・ 泉鏡花 「政談十二社」
・・・彼は決して卜者ではなかった。 そこで豊吉はこの「ひげ」と別に交際もしないくせに「ひげ」は豊吉の上にあんな予言をした。 そしてそれが二十年ぶりにあたった。あたったといえばそれだけであるが、それに三つの意味が含まれている。『豊吉が何・・・ 国木田独歩 「河霧」
・・・ ある時、母は私の行く末を心配するあまりに、善教寺という寺の傍に店を出していた怪しい売卜者のところへ私を連れて参りました。 売卜者の顔はよく憶えております、丸顔の眼の深く落ちこんだ小さな老人で、顔つきは薄気味悪うございましたが母と話・・・ 国木田独歩 「女難」
・・・ これにくらべて見ると、いつだったか、夜一寸出た時に、おじいさんの卜者に見てもらった時に、 貴方は、苦労する相ですぞ。 気をつけんきゃあならん、なあ、 金と子の縁にうすいと出て居る。と云われたのが事実らしく思われ・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
出典:青空文庫