・・・ 後年渡辺治衛門というあかじや銀行のもち主がそこを買いしめて、情趣もない渡辺町という名をつけ、分譲地にしたあたり一帯は道灌山つづきで、大きい斜面に雑木林があり、トロッコがころがったりしている原っぱは広大な佐竹ケ原であった。原っぱをめぐっ・・・ 宮本百合子 「田端の汽車そのほか」
・・・ 或時は、花が一杯咲いて気の遠くなる様なよい匂いのする原っぱを歩きよろこんで居るうちに、道がいつの間にか嶮しい山路になって私は牡鹿の様なすばやさで谷から谷へ渡らなければなりませんでした。 急な川の流れを越そうとして足をさらわれたり、・・・ 宮本百合子 「旅人(一幕)」
・・・黄葉した樹の葉と枯れ始めた草の匂いがガス燈に照らされた道に漂っている道が原っぱのようなところにひらけた。先に立って歩いていたドミトロフ君が、「鉄道線路があるから、つまずかないように!」と注意した。暫く行くと草に埋もれて、複線のレールが古・・・ 宮本百合子 「ドン・バス炭坑区の「労働宮」」
・・・ いったいどこから手を付ければ、こんなにも瘠せきった原っぱのような田地を、少くとも人並みのものに出来るのだろう……。 けれども、もうこうなっては否でも応でも収穫を得なければ大変になる。 全く強制的に彼は朝起きるとから日が落ちるま・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
出典:青空文庫