・・・母牛が犢をなめるような愛は昔から舐犢の愛といって悪い方の例にされているけれども、そういう趣きがなくなっては、母の愛は去勢されるのだ。 子どもの養、教育の資のために母親が犠牲的に働くという場合は、主として父親のない寡婦の母親の場合であるが・・・ 倉田百三 「女性の諸問題」
・・・またついせんだっても、僕がこんなに放蕩をやめないのもつまりは僕の身体がまだ放蕩に堪え得るからであろう。去勢されたような男にでもなれば僕は始めて一切の感覚的快楽をさけて、闘争への財政的扶助に専心できるのだ、と考えて、三日ばかり続けてP市の病院・・・ 太宰治 「葉」
・・・そうしないでこの悪癖を直す方法はないかと思って獣医に相談すると、それは去勢さえすればよいとの事であった。いくら猫でもそれは残酷な事で不愉快であったが、追放の衆議の圧迫に負けてしまってとうとう入院させて手術を受けさせた。 手術後目立ってお・・・ 寺田寅彦 「備忘録」
・・・又家畜を去勢します。則ち生殖に対する焦燥や何かの為に費される勢力を保存するようにします。さあ、家畜は肥りますよ、全く動物は一つの器械でその脚を疾くするには走らせる、肥らせるには食べさせる、卵をとるにはつるませる、乳汁をとるには子を近くに置い・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・ヤコヴが、偶然ペルミ号にのり込んで来たシベリアの去勢宗教のところで働くことにきめ下船する時、ゴーリキイを誘った。「俺と一緒に行かないか? 一言話せばあの鳩ぽっぼはお前もつれて行くぞ」 生気のない眼をした、ぐにゃぐにゃした感じの男は、・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
出典:青空文庫