・・・この運動に参加したものは年少気鋭の学生であり新思想家であるのを見ても、奴隷化した宗教に対する反感と、いわゆる人道主義と愛というものに対する冒険と憤激とであると見るのが至当であろう。然も現下の支那に於ける思想上の混乱に際し、世界キリスト教青年・・・ 小川未明 「反キリスト教運動」
・・・一つ欠席日数超過、二つ教師の反感を買っていること、三つ心身共に堕落していること、例えば髪の毛が長すぎる云々。 私は希望通り現級に止まったが、私より一足さきに卒業した友人がノートを残して行ってくれたので、私は毎年同じ講義のノートをもう一つ・・・ 織田作之助 「髪」
・・・という言葉があるが、僕はこんなスリルを捨てて女に乗り掛ろうとは思わんよ……という話を聴きながら競走を見ている間、寺田はふと競馬への反感を忘れていた。そして次の競走でふらふらと馬券を買うと、寺田の買った馬は百六十円の配当をつけた。払戻の窓口へ・・・ 織田作之助 「競馬」
・・・佐々木に言わせれば、笹川の本能性ともいうべき「他の優越に対する反感性」が、佐々木の場合に特別に強く現われている言うのだ。――こうしたことを読んでいて、今の佐々木の挨拶を聞いては、他の人たちはあるいは私とは違った意味の微笑を心の中に浮べたかも・・・ 葛西善蔵 「遁走」
・・・ 耕吉は半信半疑の気持からいろいろと問訊してみたが、小僧の答弁はむしろ反感を起させるほどにすらすらと淀みなく出てきた。年齢は十五だと言った。で、「それは本当の話だろうね。……お前嘘だったらひどいぞ」と念を押しながら、まだ十二時過ぎたばか・・・ 葛西善蔵 「贋物」
・・・ 俗悪に対してひどい反感を抱くのは私の久しい間の癖でした。そしてそれは何時も私自身の精神が弛んでいるときの徴候でした。然し私自身みじめな気持になったのはその時が最初でした。梅雨が私を弱くしているのを知りました。 電車に乗っていてもう・・・ 梶井基次郎 「橡の花」
・・・ 日本の文化的指導者は祖国への冷淡と、民族共同体への隠されたる反感とによって、次代の青年たちを、生かしも、殺しもせぬ生煮えの状態にいぶしつつあるのである。これは悲しむべき光景である。是非ともこれは文化的真理と、人類的公所を失わぬ、新しい・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・のみならず、憎悪と反感とを抱いていた。彼は、日本人のために理由なしに家宅捜索をせられたことがあった。また、金は払うと云いつつ、当然のように、仔をはらんでいる豚を徴発して行かれたことがあった。畑は荒された。いつ自分達の傍で戦争をして、流れだま・・・ 黒島伝治 「橇」
・・・親爺は、宇一にさほど反感を持っていないらしかった。寧ろ、彼も放さない方がいゝ、とも思っているようだった。「あいつの云うことを聞く者がだいぶ有りそうかな?」「さあ、それゃ、中にゃ有るわい。やっぱりえゝ豚がよその痩せこつと変ったりすると・・・ 黒島伝治 「豚群」
・・・への反感も手伝って、いよいよ、この内村鑑三の信仰の書にまいってしまった。いまの私には、虫のような沈黙があるだけだ。私は信仰の世界に一歩、足を踏みいれているようだ。これだけの男なんだ。これ以上うつくしくもなければ、これ以下に卑劣でもない。ああ・・・ 太宰治 「碧眼托鉢」
出典:青空文庫