・・・ ところがその反面、恋愛論などで婦人の精神と肉体とに非常に溌溂積極な表現を期待しているような評論家でも、そういう場面よりほかのところで女が活溌であることは何となく肯がいかねる感情をもったりして、自分の男としての情緒にそれをそのまま肯定し・・・ 宮本百合子 「職業のふしぎ」
・・・集団の行動を奨励している他の反面では、男や女の学生たちが自分たちで集って何かきめてやるということについて学校当局は神経を過敏に動かすのではないだろうか。 政治的成長というものは、いってみればそのような撞着的事象の本体を洞察して、その間か・・・ 宮本百合子 「女性の歴史の七十四年」
・・・四年にいたる時代を描こうとしている作者ロジェ・マルタン・デュ・ガールの人生態度の慎重さ、誠実さ、文学作品としての完成度のほんもの工合が、特に解毒剤のような清涼さで読者の感情にふれて来るというのは、その反面に何を語っているのであろうか。構成も・・・ 宮本百合子 「次が待たれるおくりもの」
・・・言葉をかえて云えば、やむを得ない応急的なあわただしさの反面に、日本の文化はもっともっと落着いて、蘊蓄を深く、根底から確乎とした自身の発展的推進力を高めて行かなければ、真に世界文化の水準に到達することは困難である、という自戒を感じているのでは・・・ 宮本百合子 「「どう考えるか」に就て」
・・・こういうような性質を持つ菊池文学が愛されたのは当然のこと、従って菊池の常識性の反面は戦争になればそれに適応した戦争を鼓吹し、戦争宣伝もどしどしやって疑問を持たなかった。戦争が一般人民にどんな犠牲を与え、しかも戦争物で自分がもうけてますます競・・・ 宮本百合子 「“慰みの文学”」
・・・ 婦人の文化上の創造能力の特質は直感的であり、感性的具体的で、その反面としては恒久性の短いこと、主観的であること、客観性や思意の力に欠けていることがこれまでのあらゆる場合に挙げられて来ているのである。そして、婦人というものはそういう風に・・・ 宮本百合子 「婦人の文化的な創造力」
・・・ けれども、歴史と個人との関係は、個人にとって受身なその一面だけではなくて、一方で時代に影響されながらその反面では究極のところ歴史を動かす動力としてそれぞれの個人の時代への働きかけの具合が決定的な意味をもっているということもなかなか面白・・・ 宮本百合子 「山の彼方は」
・・・の中の女の戒律がその反面に近松門左衛門の作品に幾多の女の悶えの姿を持っていることは、意味深い反省を私たちに与える。夏目漱石の文学のほとんどすべてが「こころ」「それから」「明暗」結婚や家庭生活における男女の生活態度の相異相剋と、母とその母の子・・・ 宮本百合子 「若い婦人のための書棚」
・・・世の中のせち辛さはしみじみわかっている反面で、恋愛や結婚についてはブルジョア的な幻想、そういう色彩で塗られて伝えられている安逸さ、華やかさを常にともなって考えられていないと、いい切られるであろうか。男の人々も自分の愛する女、妻、家庭と考える・・・ 宮本百合子 「若き世代への恋愛論」
・・・そのことは、支配者の文化がどんなに崩れやすい社会的基盤に立っていたかということを、その反面に証拠だてているのである。 商人の擡頭につれて、商人の婦女達の生活程度というものは、物質的に大変化して来た。西鶴の短篇小説の中には、大坂や江戸の大・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫