・・・ 春は過ぎても、初夏の日の長い、五月中旬、午頃の郵便局は閑なもの。受附にもどの口にも他に立集う人は一人もなかった。が、為替は直ぐ手取早くは受取れなかった。 取扱いが如何にも気長で、「金額は何ほどですか。差出人は誰でありますか。貴・・・ 泉鏡花 「国貞えがく」
フットボールは、あまり坊ちゃんや、お嬢さんたちが、乱暴に取り扱いなさるので、弱りきっていました。どうせ、踏んだり、蹴ったりされるものではありましたけれども、すこしは、自分の身になって考えてみてくれてもいいと思ったのであります。 し・・・ 小川未明 「あるまりの一生」
・・・こんなふうに町の人々には、この二人の乞食を情けなく取り扱いましたけれど、やはりどんなに風の吹く日も、また寒い日にでも、二人はこの町へやってきました。 町の人々は二人を見送って、「まだあの乞食がこの辺りをうろついている。早くどこへなり・・・ 小川未明 「黒い旗物語」
・・・ 書物でも、雑誌でも、私はできるだけ綺麗に取扱います。それなら、それ程、書物というものをありがたく思うのかというに、それは、自から別問題という気がします。 表題だけを見る時、「あゝこういう本が読みたかったのだ」と、興奮に近いもの・・・ 小川未明 「書を愛して書を持たず」
・・・或る作家は社会に生起する特殊の材料を取り扱い、或る作家は、永久に不変の自然を材料に取扱っている。畢竟、作家得意の観察から入り、深く人生に触れんとする努力から斯く異った態度を示すのである。是等の異った作家が各々異った意義と形の上で異った印象を・・・ 小川未明 「若き姿の文芸」
・・・「武器を取扱い武器を所有することを学ぼうと努力しない被抑圧階級はただ奴隷的待遇に甘んじていなければならぬであろう。吾々は、ブルジョア的平和主義者や、日和見主義者に変ることなく、吾々が階級社会に住んでいること、階級闘争と支配階級の権力の打倒と・・・ 黒島伝治 「入営する青年たちは何をなすべきか」
・・・いるとき、工場労働者とはちがった特殊な生活条件、地理環境、習慣、保守性等を持った農民、そして、それらのいろいろな条件に支配される農民の欲求や感情や、感覚などを、プロレタリアートの文学から、どういう風に取扱い、表現しなければならないか? それ・・・ 黒島伝治 「農民文学の問題」
・・・小角や浄蔵などの奇蹟は妖術幻術の中には算していないで、神通道力というように取扱い来っている。小角は道士羽客の流にも大日本史などでは扱われているが、小角の事はすべて小角死して二百年ばかりになって聖宝が出た頃からいろいろ取囃されたもので、その間・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
・・・鄭重に取り扱いましょう。感激したからと言って、文章の傍に赤線ひっぱったりなんかは、しないことにしましょう。借りて来た本ですから、大事にしなければなりません。飜訳篇、第十六巻を、ひらいてみましょう。いい短篇小説が、たくさん在ります。目次を見ま・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・またこの著者がそのモンタージュを論じた一章の表題に「素材の取り扱い方」という平凡な文字を使い、そうしてその題下に「構成モンタージュ」「場面のモンタージュ」「插話のモンタージュ」等の小区分を設けているのである。 映画素材から映画を作り上げ・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
出典:青空文庫