・・・そうして毎年秋になると、一年の年貢を取り立てるために、僕自身あそこへ下って行く。所がちょうど去年の秋、やはり松江へ下った帰りに、舟が渭塘のほとりまで来ると、柳や槐に囲まれながら、酒旗を出した家が一軒見える。朱塗りの欄干が画いたように、折れ曲・・・ 芥川竜之介 「奇遇」
・・・ さればカッフェーの創設者たる松山画伯にして、狡智に長けたること、若しかの博文館が二十年前に出版した書物の版権を、今更云々して賠償金を取立てるがように、カッフェーという名称を用いる都下の店に対して一軒一軒、賠償金を徴発していたら、今頃は・・・ 永井荷風 「申訳」
・・・ 人に金貸して、利息でも取り立てる様に書き物を取るなんて…… こっちは、出してもらう身分やないか。 一つ首を横に振られれば、二度と迫られない身やないか。 そんな心掛やから、子も何も出来んのえ。 早くから里子にやられて・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
出典:青空文庫