・・・そこに僕の好きな受持ちの先生の部屋があるのです。 やがてその部屋の戸をジムがノックしました。ノックするとは這入ってもいいかと戸をたたくことなのです。中からはやさしく「お這入り」という先生の声が聞こえました。僕はその部屋に這入る時ほどいや・・・ 有島武郎 「一房の葡萄」
・・・各受け持ちの仕事は少しも手をゆるめないで働きながらの話に笑い興じて、にぎやかなうちに仕事は着々進行してゆく。省作が四挺の鎌をとぎ上げたころに籾干しも段落がついた。おはまは御ぜんができたというてきた。 昨日はこちから三人いって隣の家の稲を・・・ 伊藤左千夫 「隣の嫁」
・・・と、受け持ちの先生はいわれました。 すると、このとき、受け持ちの先生の隣に、腰をかけていた、やさしそうな、やはり男の先生がありました。 吉雄は、その先生をなんという先生だか知りませんでした。 やさしそうな先生は吉雄の顔を見て、笑・・・ 小川未明 「ある日の先生と子供」
・・・ 昼間、教室の中で居眠りすることが多かった。受持ちの訓導は庄之助を呼んで注意した。が、庄之助はその訓導と喧嘩して帰った。 彼は氏神の前に誓った通り、もう仕事にも出掛けず、弟子も取らず、一日家にいて、そして寿子が学校へ出掛けた留守中は・・・ 織田作之助 「道なき道」
・・・ほかの先生はだいたい休みということになったが、物理の受け持ちの田丸先生はなかなか容易に承諾を与えられなかった。そこで生徒のほうで勝手に休むことに相談一決してみんなで失敬してしまったものである。先生が教場へはいってみるとそこにはたった一人、ま・・・ 寺田寅彦 「田丸先生の追憶」
熊本第五高等学校在学中第二学年の学年試験の終わったころの事である。同県学生のうちで試験を「しくじったらしい」二三人のためにそれぞれの受け持ちの先生がたの私宅を歴訪していわゆる「点をもらう」ための運動委員が選ばれた時に、自分・・・ 寺田寅彦 「夏目漱石先生の追憶」
・・・自分なども時々だいじな会議の日を忘れて遊びに出たり、受け持ちの講義の時間を忘れてすきな仕事に没頭していたり、だいじな知人の婚礼の宴会を忘れていて電話で呼び出されたりして、大いに恥じ入ることがあるが、しかたがないからなるべく平気なような顔をし・・・ 寺田寅彦 「涼味数題」
・・・融通のきかぬ一本調子の趣味に固執して、その趣味以外の作物を一気に抹殺せんとするのは、英語の教師が物理、化学、歴史を受け持ちながら、すべての答案を英語の尺度で採点してしまうと一般である。その尺度に合せざる作家はことごとく落第の悲運に際会せざる・・・ 夏目漱石 「作物の批評」
・・・ 十八等官でしたから役所のなかでも、ずうっと下の方でしたし俸給もほんのわずかでしたが、受持ちが標本の採集や整理で生れ付き好きなことでしたから、わたくしは毎日ずいぶん愉快にはたらきました。殊にそのころ、モリーオ市では競馬場を植物園に拵え直・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
・・・それにこの三日の間に、多人数の下役が来て謁見をする。受持ち受持ちの事務を形式的に報告する。そのあわただしい中に、地方長官の威勢の大きいことを味わって、意気揚々としているのである。 閭は前日に下役のものに言っておいて、今朝は早く起きて、天・・・ 森鴎外 「寒山拾得」
出典:青空文庫