・・・衆徳備り給う処女マリヤに御受胎を告げに来た天使のことを、厩の中の御降誕のことを、御降誕を告げる星を便りに乳香や没薬を捧げに来た、賢い東方の博士たちのことを、メシアの出現を惧れるために、ヘロデ王の殺した童子たちのことを、ヨハネの洗礼を受けられ・・・ 芥川竜之介 「おしの」
・・・僕は、聖母受胎をさえ、そのまま素直に信じている。そのために、科学者としての僕が、破産したって、かまわない。僕は、純粋の人間、真正の人間で在りさえすれば、―― などとあらぬ覚悟を固めたりしはじめて、全身、異様な憤激にがくがく震え、寒い廊下・・・ 太宰治 「火の鳥」
・・・ところが、また別の茎を取って点検してみると、花が盛りを過ぎてすでに受胎を終わったと思われるのがある。そういうのだと、結実した子房はちゃんと花の中心に起き直って、今まで水平の方向を向いていた柱頭が垂直に天上をさしている。すなわち直角だけ回転し・・・ 寺田寅彦 「沓掛より」
出典:青空文庫