・・・が、文字にする時は兎に角、わたしの口ずから話したはいずれも拙劣を極めたものだった。 又 わたしは第三者と一人の女を共有することに不平を持たない。しかし第三者が幸か不幸かこう云う事実を知らずにいる時、何か急にその女に憎悪を・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・けれどもこの事柄は私の口ずから申し出ないと落ち着かない種類のものと信じますから、私は東京から出て来ました。 第一、第二の農場を合して、約四百五十町歩の地積に、諸君は小作人として七十戸に近い戸数をもっています。今日になってみると、開墾しう・・・ 有島武郎 「小作人への告別」
・・・と沼南自身の口ずから聞いたのは数回に留まらない。瑜瑕並び覆わざる赤裸々の沼南のありのままを正直に語るのは、沼南を唐偏木のピューリタンとして偶像扱いするよりも苔下の沼南は微笑を含んでかえって満足するであろう。・・・ 内田魯庵 「三十年前の島田沼南」
出典:青空文庫