・・・七兵衛は口軽に、「とこう思っての、密と負って来て届かねえ介抱をしてみたが、いや半間な手が届いたのもお前の運よ、こりゃ天道様のお情というもんじゃ、無駄にしては相済まぬ。必ず軽忽なことをすまいぞ、むむ姉や、見りゃ両親も居なさろうと思われら、・・・ 泉鏡花 「葛飾砂子」
・・・ 政さんに促されて満蔵は重い口を切った。「おとよさアが省作さアに惚れてる」「さアいよいよおもしれい。どういう証拠を見た、満蔵さん。省作さんもこうなっちゃおごんなけりゃなんねいな」 口軽な政さんはさもおもしろそうに相言をとる。・・・ 伊藤左千夫 「隣の嫁」
・・・ けれども、寺田屋には、御寮はん、笑うてはる場合やおへんどっせと口軽なおとみという女中もいた。お定は先妻の子の伊助がお人よしのぼんやりなのを倖い、寺田屋の家督は自身腹を痛めた椙に入聟とってつがせたいらしい。ところが親戚の者はさすがに反対・・・ 織田作之助 「螢」
・・・ いやでござりますともさすがに言いかねて猶予う光代、進まぬ色を辰弥は見て取りて、なお口軽に、私も一人でのそのそ歩いてはすぐに飽きてしまってつまらんので、相手欲しやと思っていたところへここにおいでなさったのはあなたの因果というもの、御迷惑・・・ 川上眉山 「書記官」
・・・「自分の一生懸命な質問は、明かに弱味を見せたくなさ、尊敬を失いたくなさに根差している虚勢で、お為ごかしの否定を与えられ、また或る種の人々は、彼の口軽な、頓智のいい戯談で、巧にはぐらかしてしまう。それで自分がすまされると思うのか、今に忘れ・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
出典:青空文庫