・・・某致仕候てより以来、当国船岡山の西麓に形ばかりなる草庵を営み罷在候えども、先主人松向寺殿御逝去遊ばされて後、肥後国八代の城下を引払いたる興津の一家は、同国隈本の城下に在住候えば、この遺書御目に触れ候わば、はなはだ慮外の至に候えども、幸便を以・・・ 森鴎外 「興津弥五右衛門の遺書(初稿)」
・・・外の人のためになら、同国の女を裸体にする取次は無論しない。しかしロダンがためには厭わない。それは何も考えることを要せない。ただ花子がどう云うだろうかと思ったのである。「とにかく話して見ましょう。」「どうぞ。」 久保田は花子にこう・・・ 森鴎外 「花子」
・・・誰の事かと思って問えば、君の事である。同国ではあるが、親類ではないと、私は答えた。主人は不審に思うらしい様子で、「へえ、あんなに好く肖てお出になって」と云った。私は君に似ているだろうか、君はどう思うと云って、F君を見た。 F君がその時、・・・ 森鴎外 「二人の友」
出典:青空文庫