・・・それは海水着に海水帽をかぶった同年輩の二人の少女だった。彼等はほとんど傍若無人に僕等の側を通り抜けながら、まっすぐに渚へ走って行った。僕等はその後姿を、――一人は真紅の海水着を着、もう一人はちょうど虎のように黒と黄とだんだらの海水着を着た、・・・ 芥川竜之介 「海のほとり」
・・・「三浦は贅沢な暮しをしているといっても、同年輩の青年のように、新橋とか柳橋とか云う遊里に足を踏み入れる気色もなく、ただ、毎日この新築の書斎に閉じこもって、銀行家と云うよりは若隠居にでもふさわしそうな読書三昧に耽っていたのです。これは勿論・・・ 芥川竜之介 「開化の良人」
・・・ 自分の書斎に入って来たるは小山という青年で、ちょうど自分が佐伯にいた時分と同年輩の画家である、というより画家たらんとて近ごろ熱心に勉強している自分と同郷の者である。彼は常に自分を兄さんと呼んでいる。『ご勉強ですか。』『いや、そ・・・ 国木田独歩 「小春」
・・・亭主が二十七八で、女房はお徳と同年輩位、そしてこの隣交際の女性二人は互に負けず劣らず喋舌り合っていた。 初め植木屋夫婦が引越して来た時、井戸がないので何卒か水を汲ましてくれと大庭家に依頼みに来た。大庭の家ではそれは道理なことだと承諾して・・・ 国木田独歩 「竹の木戸」
・・・彼と同年だった、地主の三男は、別に学問の出来る男ではなかったが、金のお蔭で学校へ行って今では、金比羅さんの神主になり、うま/\と他人から金をまき上げている。彼と同年輩、または、彼より若い年頃の者で、学校へ行っていた時分には、彼よりよほど出来・・・ 黒島伝治 「電報」
はじめて煙草を吸ったのは十五、六歳頃の中学時代であった。自分よりは一つ年上の甥のRが煙草を吸って白い煙を威勢よく両方の鼻の孔から出すのが珍しく羨ましくなったものらしい。その頃同年輩の中学生で喫煙するのはちっとも珍しくなかっ・・・ 寺田寅彦 「喫煙四十年」
・・・ それから後に気を付けて見ると同年輩の友人の中の誰彼の額やこめかみにも、三尺以上距れていてもよく見えるほどの白髪を発見した。まだ自分等よりはずっと若い人で自分より多くの白髪の所有者もあった。ある時たまたま逢った同窓と対話していた時に、そ・・・ 寺田寅彦 「厄年と etc.」
・・・隣家に同年輩の娘子供はずいぶんないでもなかったのにこれらとはとにかく遊ばなかった。何故だろうと考えてみた事もあった。隣は多く小官吏であったのである。 ある日の事、昼の休みに帰って来て二階へ上がろうとした時、階段に凭れてうつふしになってい・・・ 寺田寅彦 「雪ちゃん」
・・・だが幸いそのころ、近所にあった親戚でちょうど同年輩の者が来ていたので、よくそこへ行ってはそれと遊んだように覚えている。 いったい、自分は交際ということが下手のほうで、今も自ら求めて交際するというような事はなく、ただ心を許したわずかの友と・・・ 寺田寅彦 「わが中学時代の勉強法」
・・・、同じ白色を出すのに白紙の白さと、食卓布の白さを区別するくらいな視覚力がないと視覚の発達した今日において充分理想通りの色を表現する事ができないと同様の意義で、――文学者の方でも同性質、同傾向、同境遇、同年輩の男でも、その間に微妙な区別を認め・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
出典:青空文庫