・・・結婚後、まる二年の年月を経、今、自分は、少くとも当面の生活には馴れたことを感じる。同時に落付いた。胸をわくわくさせるような物珍らしさが去った代りに、又文字に書き写せる丈、心に余裕が出来たのである。何年まで此が続くか、如何那ことが起って来るか・・・ 宮本百合子 「小さき家の生活」
・・・境内一帯に、簡素な雄勁な、同時に気品ある明るさというようなものが充満していた。建物と建物とを繋いだ直線の快適な落付きと、松葉の薫がいつとはなししみこんだような木地のままの太い木材から来る感銘とが、与って力あるのだ。 黄檗の建物としてはど・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
・・・事件の発展につれて登場しているいくたりかの男女は、それぞれに人間としての心のかぎりをつくして行動し、事件そのものに捲き込まれていながらも、同時に事件そのものを判断する関係におかれている。その過程が読むものの心にまた独特の反響をよびさましてゆ・・・ 宮本百合子 「文学と生活」
・・・改札口がぴしゃりと閉る。同時であった。藍子は二分のことで乗りおくれたのであった。それでも彼女は、「北條行もう出ましたか」と、改札口を去ろうとする駅員に念を押した。「出ました。この次は銚子行、七時二十分」 それは、旅行案内で藍・・・ 宮本百合子 「帆」
・・・日本の民主化の課題の複雑さは、われわれの生活に封建的なものがどっさりこびりついていながら、同時的に資本主義の悪徳にわずらわされているという現実の状態にある。日本の民主主義の道には、この二重の投影がある。したがって、日本での人間性の解放を具体・・・ 宮本百合子 「真夏の夜の夢」
・・・ 自分の心臓からとばしり出る血を絵の具にして尊い芸術を――不朽の芸術を完成して最後の一筆を加え終ると同時死んだ画家の気持をどの芸術家にでも持ってもらいたいと思う。 その画家が若かったか老いて居たかは私は知らないけれ共だれでもが生と死・・・ 宮本百合子 「無題(二)」
・・・しかも、それが同時的な人間の課題として、今日わたし共の前に提出されているのである。 日夜地球はめぐりつつあり、こうして、或るところでは重く汁気の多い果実が深い草の上に腐れ墜ち、或るところでは実らぬ実を風にもがれているけれども、豊富な人類・・・ 宮本百合子 「よもの眺め」
・・・未来派は心象のテンポに同時性を与える苦心に於て立体的な感覚を触発させ、従って立体派の要素を多分に含み、立体派は例えば川端康成氏の「短篇集」に於けるが如く、プロットの進行に時間観念を忘却させ、より自我の核心を把握して構成派的力学形式をとること・・・ 横光利一 「新感覚論」
出典:青空文庫