・・・この二つを同義語とするものは恐らく女人の俳優的才能を余りに軽々に見ているものであろう。 礼法 或女学生はわたしの友人にこう云う事を尋ねたそうである。「一体接吻をする時には目をつぶっているものなのでしょうか? それとも・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・創作とは空想と同義ではない。題材の取り扱いの上に作者の独創があるか無いかが問題になるのである。ゲーテの「イタリア紀行」は創作であり、そこらの三文小説は小説ではないことは事新しく言うまでもないことである。 こういうふうに考えて来るといわゆ・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・ということもあるが、物理の学徒等が日常お互いに自由に話し合う場合の用語には存外合理的でないものが多数にあって、問題の「速度のはやい」などもその一例である。この場合の「速度」は俗語の「はやさ」と同義であって術語のヴェロシティーと同じではないの・・・ 寺田寅彦 「随筆難」
・・・しかし便利と幸福とは必ずしも同義ではない。私は将来いつかは文明の利器が便利よりはむしろ人類の精神的幸福を第一の目的として発明され改良される時機が到着する事を望みかつ信ずる。その手始めとして格好なものの一つは蓄音機であろう。 もしこの私の・・・ 寺田寅彦 「蓄音機」
・・・の観念に相当するものはただ一つの輪のようなものであって、振動を数える数は一でも二でも一万でもことごとく異語同義に過ぎまい。よしやそれほど簡単な場合でなくとも、有限な個体の間に有限な関係があるだけの宇宙ならば、万象はいつかは昔時の状態そのまま・・・ 寺田寅彦 「時の観念とエントロピーならびにプロバビリティ」
・・・ もちろん西洋にも荒海とほぼ同義の言葉はある。またその言葉が多数の西洋人にいろいろの連想を呼び出す力をもっていることも事実である。しかしそれらの連想はおそらく多くは現実的功利的のものであろう。またもしそれが夢幻的空想的であるとしても、日・・・ 寺田寅彦 「俳句の精神」
・・・ 英語やドイツ語とだんだんに教わるうちに、しばしば日本語とよく似た音をもった同義の語に出会う事がある。これは偶然であろうとは思っても、そのことごとくが偶然の暗合であるという事を証明する事もかなりにむつかしそうに思われた。 自分のまだ・・・ 寺田寅彦 「比較言語学における統計的研究法の可能性について」
・・・真によく愛すことと、真によく闘うことは、今日のような階級対立の鋭い大衆の不幸な社会にあって、全く同義語のような歴史的意義をもっていると私は思うのである。〔一九三五年五月〕 宮本百合子 「新しい一夫一婦」
・・・ゲーテだのルソーだの岡倉天心だのの伝記には、恋愛と同義語のような異性の間の友情が出て来てもいる。異性の間に漠然とした関心、興味、ある魅力が感じられているという状態のとき、それは互の条件次第で恋愛としてのびることも想像されると思う。けれども、・・・ 宮本百合子 「異性の間の友情」
・・・ 今日の社会では、職業的ということと金儲けが眼目ということはほとんど同義語に印象される習慣です。生存競争が全く個人主義的に行われているから、職業的というとき、ひとよりちょっとでも分をよく立ちまわるということがすぐピンと来るような憐れむべ・・・ 宮本百合子 「現実の道」
出典:青空文庫