・・・丁度、図書館の書物蔵のように、高くまで大きな箱が幾通りにも立ち、バタン、バタンと賑に落ちる蓋つきの小さい区切りが、幾十となく、名札をつけて並んでいるのである。 下のタタキに下駄の音をさせてその間に入り、塵くさいような、悪戯のような匂いを・・・ 宮本百合子 「思い出すかずかず」
・・・名が急には覚えられないので名刺のうらに書きつけた名札を籠の隅に貼り、良人の注意が主で、今日まで家族の一員となっているのである。 年が更った今いるのは、多く代がわりになった。 或るものは死に、或るものにはふいとしたことから逃げられ、新・・・ 宮本百合子 「小鳥」
・・・と云っている言葉には、不如意な境遇と闘ってこの矛盾の多い社会に自分の名札のかかった生存席を占めるために音のない、しかし恐しい競争を経験したものの感慨がこめられているのである。 山本有三氏は、斯様にして獲得された今日の彼としての成功に至る・・・ 宮本百合子 「山本有三氏の境地」
出典:青空文庫