・・・の双句は天成のデマゴオクを待たない限り、発し得ない名言だったからである。 わたしは歴史を翻えす度に、遊就館を想うことを禁じ得ない。過去の廊下には薄暗い中にさまざまの正義が陳列してある。青竜刀に似ているのは儒教の教える正義であろう。騎士の・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・平常は冗談口を喋らせると、話術の巧さや、当意即妙の名言や、駄洒落の巧さで、一座をさらって、聴き手に舌を巻かせてしまう映画俳優で、いざカメラの前に立つと、一言も満足に喋れないのが、いるが、ちょうどこれと同様である。しかし、平常は無口でも、いざ・・・ 織田作之助 「大阪の可能性」
・・・人間は誰でも少しは狂人を自分の中に持っているものだという名言は、忘れられないことの一つだが、中でもこれは、かき消えていく多くの記憶の中で、ますます鮮明に膨れあがって来る一種異様な記憶であった。 それも新緑の噴き出て来た晩春のある日のこと・・・ 横光利一 「微笑」
出典:青空文庫