・・・ 巻煙草を吸い出したのもやはり中学時代のずっと後の方であったらしい。宅には東京平河町の土田という家で製した紙巻がいつも沢山に仕入れてあった。平河町は自分の生れた町だからそれが記憶に残っているのである。ピンヘッドとかサンライズとか、その後・・・ 寺田寅彦 「喫煙四十年」
・・・また竹筒の底に落ち着くのである。また吸い出しては食い切る。きたないと言えばきたないが、しかしそこには一種の俳諧があった。つい近ごろどこかのデパートでこれと同じものを見つけたが食ってはみなかった。おそらく四十年前の味は求められないであろう。・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・近頃日本でも美顔術といって顔の垢を吸出して見たり、クリームを塗抹して見たりいろいろの化粧をしてくれる専門家が出て来ましたが、ああいう商売はおそらく昔はないのでしょう。今日のように職業が芋の蔓みたようにそれからそれへと延びて行っていろいろ種類・・・ 夏目漱石 「道楽と職業」
出典:青空文庫