・・・自分というものを押し出したような強さではなくて、宗達は自然、動物、人間それぞれなりの充実感によりそって行って、そこへはまり込み、芸術に吸収して来ているのである。 自然人らしくさえある宗達が、画面に様式化を創めたのは興味深い。彼にとっては・・・ 宮本百合子 「あられ笹」
・・・女としての生活がこれまでもそれによって悩んで来た種々様々の矛盾は、それなりで、より広く社会活動の渦中に投げこまれあるいは吸収されている状態であると思う。近頃早婚と多産とが奨励されはじめている。それはなんとなく賑やかで楽しげな声である。だが、・・・ 宮本百合子 「異性の間の友情」
・・・一九二八年には百十万人もあった失業者を全部吸収したが、それでもまだ足りない。工場によっては苦しまぎれに、賃銀をよくして労働者を集めようとする。そこで、一九三〇年の冬に大清算された「飛びや」が現れた。つまり、五十哥でも多い方へ多い方へと、工場・・・ 宮本百合子 「「鎌と鎚」工場の文学研究会」
・・・五年間にその半数を生産の中に吸収出来ればよいと予定されていた。ここでも亦、愉快な予定はずれが生じた。――生産の予想外の拡大は予想外な速度で労働力を生産の各部へ吸い込んでしまった。失業者はソヴェト同盟から消えた。これまでは、未就業労働者に職場・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェト同盟の文化的飛躍」
・・・広い同盟の四方へ出かけ、そこへ文化の光をふりまくと同時に、そこにはじまっている農村または新工場都市の全然これまでとはちがう新しい社会生活、生産労働の形態から発生する心理を、めいめいの芸術の新素材として吸収しようとしたのであった。 五ヵ年・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・これは赤外線、紫外線を吸収して人工光線の下で仕事をするのに大変疲れないのだそうです。大奮発です。でも眼玉ですものね。そう云えば、私のこれを書いているテーブルの上には、馬の首のついた中学生じみた文鎮のわきに明視スタンドが立っているのです。その・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・いかに貴い肥料が加えられても、それを吸収する力のない所では何の役にも立たない。私は教養の機会と材料とが我々の前に乏しいとは思わない。ただそれに相当する根が小さいのを忘れる。 汝の根に注意を集めよ。・・・ 和辻哲郎 「樹の根」
・・・偉大な西洋文明を真髄まで吸収しつくした後に、初めて真に高貴な日本的がその内に現われるのではないだろうか。 この際このことを言うのはやや自己弁解に類する。しかし私はそう信じている。 今度の世界戦争は恐らく Menschheit の向上・・・ 和辻哲郎 「「ゼエレン・キェルケゴオル」序」
・・・もちろん能面は能の演技に使用されるものであり、謡と動作とによる表情を自らの内に吸収しなくてはならなかった。この条件が能面の制作家に種々の洞察を与えたでもあろう。しかしいかなる条件に恵まれていたにもせよ、人面を彫刻的に表現するに際して、自然的・・・ 和辻哲郎 「能面の様式」
・・・ このような面の働きにおいて特に我々の注意を引くのは、面がそれを被って動く役者の肢体や動作を己れの内に吸収してしまうという点である。実際には役者が面をつけて動いているのではあるが、しかしその効果から言えば面が肢体を獲得したのである。もし・・・ 和辻哲郎 「面とペルソナ」
出典:青空文庫