・・・ 芭蕉の俳諧に現われた恋の句については小宮豊隆君が本講座において周到な研究を発表されている。その説にもあるように俳諧に現われている恋は濃艶痛切であってもその底にあるものは恋のあわれであり、さびしおりである。すなわち恋の風雅であり、風雅の・・・ 寺田寅彦 「俳諧の本質的概論」
・・・ このような可能性への探究の第一歩を進めるための一つの手掛かりは、上記のごとき統計的質的現象の周到なる実験的研究と、それの結果の質的整理から量的決算への道程の中に拾い出されはしないであろうか。 要するに、従来のいわゆる統計物理学は物・・・ 寺田寅彦 「量的と質的と統計的と」
・・・ 三重吉は用意周到な男で、昨夕叮嚀に餌をやる時の心得を説明して行った。その説によると、むやみに籠の戸を明けると文鳥が逃げ出してしまう。だから右の手で籠の戸を明けながら、左の手をその下へあてがって、外から出口を塞ぐようにしなくっては危険だ・・・ 夏目漱石 「文鳥」
・・・ここの主人はじつに用意周到だね。」「ああ、細かいとこまでよく気がつくよ。ところでぼくは早く何か喰べたいんだが、どうも斯うどこまでも廊下じゃ仕方ないね。」 するとすぐその前に次の戸がありました。「料理はもうすぐできます。 ・・・ 宮沢賢治 「注文の多い料理店」
・・・必しも咎めることは出来ないが、現実を周到に観察し、それぞれをなるたけ正確に、活々と表現しようと努力してゆけば、自然とそういう欠点はなおるであろうと思う。 終りの印象的にとらえられている場面は書きかたをもっと煩雑でなくするとズッと活きて来・・・ 宮本百合子 「小説の選を終えて」
・・・前半から後半へうつる第四章の冒頭で作者は周到に、「一つのことについて明瞭になるまで十分に考えられない」状態としてアサの生活をも語っている。しかし、読者が作家に求めるのは、アサ自身は或は無意識であるかもしれないそういう人間成長の急所についての・・・ 宮本百合子 「徳永直の「はたらく人々」」
・・・ この大部な第一巻だけを見ても、内容の精密さ、遺漏なきを期せられている周到さがはっきりわかるのであるが、同時に、頁毎にくりひろげられるこの偉大な人間及芸術家の生活現象に密林はおそろしいほど鬱蒼としているものだから、そのディテールの中で迷・・・ 宮本百合子 「『トルストーイ伝』」
・・・ 今日までの作品において、バックは周到な観察と同情と実感とをもって、中国は中国なり、というところまでを描き来った。中国は中国としてどうなろうとしているか、というのが今日の問題である。バックはやがてどのような程度まで進んだ理解でそこを描く・・・ 宮本百合子 「若い婦人のための書棚」
・・・更に私たちが、周到な理解をもって知らなければならない重大なことがある。それは、工場、官庁その他の公共的な場面に働く勤務者が、私たちと全く同様な生活の必要から一定の要求をすると、当事者たちは、その要求を拒絶出来ない代り、忽ち、その結果を、一般・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫