・・・しかし、悪いことを咎めるのが大切であると同時に善いことを勧めるのもなおさら肝要である。議会でも暴露の泥仕合にのみ忙しくして積極的に肝要な国政を怠れば真面目な国民は決して喜ばないであろうと同様に、学位授与の弊害のみを誇大視して徒らにジャーナリ・・・ 寺田寅彦 「学位について」
・・・を唄うことが出来るばかりでなく、ロンドンの動物園にいたある大鴉などは人が寄って来ると“Who are you ?”と六かしい声で咎めるので観客の人気者となったという話である。そんなことから考えると、鴉がすぐ耳元で歌っている歌に合わせて頸を曲・・・ 寺田寅彦 「鴉と唱歌」
・・・しかしこれが人を殺すための道具だと思って見ると、白昼これを電車の中に持ち込んで、誰も咎める人のないのみならず、何の注意すらも牽かないのが不思議なようにも思われた。 結局絵は一枚も描かないで疲れ切って帰って来たのであった。しかしケンプェル・・・ 寺田寅彦 「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・ 人から咎められなくても自分でも気が咎めるのは、一度どこかで書いたような事をもう一度別の随筆の中で書かなければ工合の悪いようなはめになった時である。尤もそれ自身では同じ事柄でも前後の関係がちがって来ればその内容もまたちがった意義をもって・・・ 寺田寅彦 「随筆難」
・・・しかし誰もその不合理を咎める人はない。帝展も一つの有機体であって生きているものである以上は去年と同じであるはずはない。「生きるとは変化する事である」という言葉が本当なら、今年は今年の帝展というものがなければならない。しかしこの有機体の細胞で・・・ 寺田寅彦 「帝展を見ざるの記」
・・・その間にも私は、寸刻も早く看守が来て、――なぜ乱暴するか――と咎めるのを待った。が、誰も来なかった。 私はヘトヘトになって板壁を蹴っている時に、房と房との天井際の板壁の間に、嵌め込まれてある電球を遮るための板硝子が落ちて来た。私は左の足・・・ 葉山嘉樹 「牢獄の半日」
・・・しかし火つけが悪い事と感じた瞬間には、本心に咎める所があって、あんな事をせなんだら善かったと思わずには居られまいと思うがどうであろうか。なかなか以てそんな事は思わぬ。それならその瞬間にはどういう事を思うて居たろうか。それは、吉三は可愛いと思・・・ 正岡子規 「恋」
・・・ 若しそんな人が在ったら、芳子さんは真先に、其の人を咎めるでしょう。 芳子さんは、はっきりと、「決して致しません」と云いました。「そうでしょう。なさらないでしょう。けれどもよくお気をおつけなさい」 これだけのお話で其時は・・・ 宮本百合子 「いとこ同志」
・・・自分は、どっちも読み直し、文章そのものに何の咎めるべきところはないと云った。「――しかしですね」 清水はぐっとのり出した。「その文章そのものはそうかもしれないが、前後との関係で、いけないんだ。……大体、戦争の記事を扱うのがいけな・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・必しも咎めることは出来ないが、現実を周到に観察し、それぞれをなるたけ正確に、活々と表現しようと努力してゆけば、自然とそういう欠点はなおるであろうと思う。 終りの印象的にとらえられている場面は書きかたをもっと煩雑でなくするとズッと活きて来・・・ 宮本百合子 「小説の選を終えて」
出典:青空文庫