・・・そして本当に自由な人間としての創造的能力の大部分を、巧みで無邪気でしかも自然の悪計に満ちた女性と、彼女の営む家庭、育児室のために浪費させられると考えた。一九〇三年にバーナード・ショウの書いた「人と超人」はそういう思想に立っている。日本でも初・・・ 宮本百合子 「人間の結婚」
・・・ この小説は題が示す通り、一人の若いインテリゲンツィアの女が、人間的な生活を求めて或る一人の男と結婚をしたが、その結婚生活がその女の求めていたような理解の上に営むことが出来ないため、女も男も苦しみ、女が主動的にそれを破壊するに至った過程・・・ 宮本百合子 「「伸子」について」
・・・文学作品と読者とに対して評価の責任ある作用を営むものとしての批判精神は、その場合とかくそれぞれの作品の、文学以前の現実現象に対する作者の観かた如何から、評価の一歩を踏み出してゆくことになった。作品の内容、形式と、二つの別のもののように見られ・・・ 宮本百合子 「文学精神と批判精神」
・・・日本の自然主義作家が、一度は確立された自我に向って振う痛烈な自己の鞭打の精神力をもち得ず、低く日常茶飯事を観照し写実的作用を営むところに定着してしまったのは、理由ないことではなかった。 明治四十年から十年間に亙る旺盛な文学活動において、・・・ 宮本百合子 「文学における今日の日本的なるもの」
・・・夫の死後小さいゴーリキイと祖父の家に暮すようになってからは、どちらかというと自分の感情の流れに流されて暮し、ゴーリキイとは離れて生活を営む時の方が多かったらしい。若くて悲惨なその最期を終るまでには、とるところもない性質の男と夫婦になり、ゴー・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイによって描かれた婦人」
・・・ 人間の社会、この人生は、確に「真理を愛し、真実な生活を営む」人間の日常生活がとりも直さずその「社会の中枢に立って立派に働く」ことと一致したものでなければならない筈である。けれども、今日の社会の現実は、そのような人間的調和をもった社会生・・・ 宮本百合子 「山本有三氏の境地」
・・・人間らしい生活を営む道が殆どふさがっている。それにも拘らず私たちは生きている限り人間である。従って人間的慾求をすて得ないものであり、生きなければならぬ。自分の日常に人間的なものが尠ければ尠いほど私たちの心はそれを求めて燃えざるを得ない。毎日・・・ 宮本百合子 「若き時代の道」
・・・ 芸術というものの性質がそうしたものであるから、芸術家、殊に天才と言われるような人には実世間で秩序ある生活を営むことの出来ないのが多い。Goethe が小さいながら一国の国務大臣をしていたり、ずっと下って Disraeli が内閣に立っ・・・ 森鴎外 「沈黙の塔」
出典:青空文庫