・・・これではまるで土方か牛殺しと同等であると言って少しばかり憤慨したのであった。 もっとも、自然を愛することを知らない自然科学者、人間をかわいがらない教育家も捜せばやはりいくらもあることはあるのである。 三 内田・・・ 寺田寅彦 「破片」
・・・軍人か土方の親方ならばそれでも差支はなかろうが、いやしくも美と調和を口にする画家文士にして、かくの如き粗暴なる生活をなしつつ、毫も己れの芸術的良心に恥る事なきは、実にや怪しともまた怪しき限りである。さればこれらの心なき芸術家によりて新に興さ・・・ 永井荷風 「妾宅」
・・・顔がむくむく膨れていて、おまけにあんな冠らなくてもいいような穴のあいたつばの下った土方しゃっぽをかぶってその上からまた頬かぶりをしているのだ。 手も足も膨れているからぼくはまるで権十が夜盗虫みたいな気がした。何をするんだと云ったら、なん・・・ 宮沢賢治 「或る農学生の日誌」
・・・「それゃうそでさあ大工もほんのちょっとです。土方をやめてなったんです。その土方もまたちょっとです。それから前は知りません。土方ばかりじゃありません、飴屋もやったて云いますよ。」「巡査をどうしてやめたんです。」「あんな巡査じゃだめでさ・・・ 宮沢賢治 「バキチの仕事」
・・・その娘さんは土方さんと云い、お茶の水の上級生であった。成美というのが、そのお婿さんであろうと思う。 ショルツ氏についてコンチェルトを弾く位だったひとが、結婚した良人がシントーイスムでピアノにさわれずいたずらに年を経ている例がある。 ・・・ 宮本百合子 「きのうときょう」
・・・男は土方をしても労働できるけれども、女の人は売笑婦になる。そういう道徳的頽廃を起すから女の失業者の問題を解決しなければならないけれども、社会的解決は資本主義的民主主義ではできません。だからある点ではこれらの民主主義社会は、すべてのものの幸福・・・ 宮本百合子 「幸福の建設」
・・・ざっといって見ると、明月谷に他から移り住んだ元祖である元記者の某氏、病弱な彫刻家である某氏、若いうちから独身で、囲碁の師匠をし、釈宗演の弟子のようなものであった某女史、決して魚を食わない土方の親方某、通称家鴨小屋の主人某、等々が、宇野浩二氏・・・ 宮本百合子 「この夏」
・・・その間に女は、線路のどこかで、人足に――土方に会い、お嫁に来ないか、女房にならないかと云われ、そのまま一緒に夕暮二三時間すごす。すぐどうかなったのなり。 この女、人を見れば、お嫁にゆきたい、世話をしてくれないかという。 翌日、あの土・・・ 宮本百合子 「一九二五年より一九二七年一月まで」
・・・ 町方から小半里の間かなりの傾斜を持って此村は高味にあるのでその一番池から水を引くと云う事は比較的費用も少しですみ、容易でも有ろうと云うのでその話はかなりの速力で進んで、男女の土方の「トロッコ」で散々囲りの若草はふみにじられ、池の周囲に・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・演劇の世界が封建的なしきたりからぬけ切っていないことは土方与志さんのような世界を歩いて来た演出家でさえ、日本の今日の芝居の社会で口をきくときは東宝さん、何々さん、と昔風な仁義の口調をつかっておられるのを見てもわかる。文学の分野はすこし前進し・・・ 宮本百合子 「俳優生活について」
出典:青空文庫