・・・農場は父のものだが、開墾は全部矢部という土木業者に請負わしてあるので、早田はいわば矢部の手で入れた監督に当たるのだ。そして今年になって、農場がようやく成墾したので、明日は矢部もこの農場に出向いて来て、すっかり精算をしようというわけになってい・・・ 有島武郎 「親子」
・・・工兵士官なる彼は、土木学者でありしと同時に、また地質学者であり植物学者でありました。彼はかのごとくにして詩人でありしと同時にまた実際家でありました。彼は理想を実現するの術を知っておりました。かかる軍人をわれわれはときどき欧米の軍人のなかに見・・・ 内村鑑三 「デンマルク国の話」
・・・ またあるとき、ケーは土木工事をしているそばを通りかかりますと、多くの人足が疲れて汗を流していました。それを見ると気の毒になりましたから、彼は、ごくすこしばかりの砂を監督人の体にまきかけました。と、監督は、たちまちの間に眠気をもよおし、・・・ 小川未明 「眠い町」
・・・追ん出てしまった古女房が鉱山師か土木建築師の妾に収まって、へんに威勢よく、取りつく島もないくらい幅を利かしているのに出会った感じだと、言ってもよい。勝手にしやがれと、そっぽを向くより致し方がない。しかし、コテコテと白粉をつけていても、ふと鼻・・・ 織田作之助 「大阪の憂鬱」
・・・それからまた県土木技師の設計監督によるモダーン県道を徳川時代の人々が闊歩したり、ナマコ板を張った塀の前で真剣試合が行なわれたりするのも考えものであるが、これはやむを得ないことかもしれない。 これに比べて現代を取り扱った邦画はいくらか有利・・・ 寺田寅彦 「映画時代」
・・・力やエネルギーの概念がどうなったところで、建築や土木工事の設計書に変更を要するような心配はない。 アインシュタインおよびミンコフスキーの理論のすぐれた点と貴重なゆえんはそんな安直な事ではないらしい。時と空間に関する吾人の狭いとらわれたご・・・ 寺田寅彦 「春六題」
・・・ 十七 野中兼山の土木工学者としての逸話を二つだけ記憶している。その一つは、わずかな高低凹凸の複雑に分布した地面の水準測量をするのに、わざと夜間を選び、助手に点火した線香を持って所定の方向に歩かせ、その火光をねら・・・ 寺田寅彦 「藤棚の陰から」
・・・これは土木工学の基礎となる土圧の問題には当然考慮さるべきものと思われるのであったが、ごく最近にこの考えを採用して土圧の問題を新しく考え直そうとする人も現われたようである。 これだけの例から見ても、その当代の流行問題とはなんの関係もなくて・・・ 寺田寅彦 「物理学圏外の物理的現象」
・・・坂を馳け下りんとの野心あればなり、坂の長さ二丁余、傾斜の角度二十度ばかり、路幅十間を超えて人通多からず、左右はゆかしく住みなせる屋敷ばかりなり、東洋の名士が自転車から落る稽古をすると聞いて英政府が特に土木局に命じてこの道路を作らしめたかどう・・・ 夏目漱石 「自転車日記」
・・・ ことし四月某日、土木、功を竣め、新たに舎の規律勧戒を立てり。こいねがわくは吾が党の士、千里笈を担うてここに集り、才を育し智を養い、進退必ず礼を守り、交際必ず誼を重じ、もって他日世になす者あらば、また国家のために小補なきにあらず。かつま・・・ 福沢諭吉 「慶応義塾の記」
出典:青空文庫