・・・ 赤道へ行っても実際は地球儀にかいてあるような線はどこにも存在しない。地図の上ではちがった絵の具でくっきりと塗り分けられた二つの国の国境へ行って見ても、杭が一本立ってるくらいのものである。人間のこしらえた境界線は大概その程度のものである・・・ 寺田寅彦 「日本楽器の名称」
・・・ それはからだの中に泥や水がたまって、無暗にふくれる病気で、しまいには中に野原や山ができて狸のからだは地球儀のようにまんまるになりました。 そしてまっくろになって、熱にうかされて、「うう、こわいこわい。おれは地獄行きのマラソンを・・・ 宮沢賢治 「蜘蛛となめくじと狸」
・・・卓の上には地球儀がおいてありましたしうしろのガラス戸棚には鶏の骨格やそれからいろいろのわなの標本、剥製の狼や、さまざまの鉄砲の上手に泥でこしらえた模型、猟師のかぶるみの帽子、鳥打帽から何から何まですべて狐の初等教育に必要なくらいのものはみん・・・ 宮沢賢治 「茨海小学校」
・・・ ダーリヤ・パヴロヴナ自身にさえ、彼女の一生は地球儀のどの色で塗られている場所で終るのか、予想もつかないではないか。地球の面の広さ、そこに撒かれた自分達の生活の何とも云えず拠りどころなき立場――。ダーリヤ・パブロヴナは、今日のような曇った空・・・ 宮本百合子 「街」
・・・書棚の上には、地球儀が一つ置いてある。卓の上には分析に使う硝子瓶がある。六分儀がある。古い顕微鏡がある。自然学の趣味もあるという事が分かる。家具は、部屋の隅に煖炉が一つ据えてあって、その側に寝台があるばかりである。「心持の好さそうな住ま・・・ 著:ランドハンス 訳:森鴎外 「冬の王」
出典:青空文庫