・・・あるいはまた、粉々にくずれた煉瓦の堆積からむくむくと立派な建築が建ち上がったりする。 昔ある学者は、光の速度よりもはやい速度で地球から駆け出せば宇宙の歴史を逆さまにして見られるというような寝言を言った。しかしこのような超光速度はできない・・・ 寺田寅彦 「映画の世界像」
・・・金相学上の顕微鏡写真帳も、そういうスケールを作るための素材の堆積であるとも言われよう、もし、あの複雑な模様を調和分析にかけた上で、これにさらに統計的分析を加えれば、系統的な分類に基づくスケールを設定することも、少なくも原理的には可能である。・・・ 寺田寅彦 「感覚と科学」
・・・そういう場合に寄り集まった材料が互いに別々な畑から寄せ集められたものである以上各部分の間にはなんらの必然的な連絡はなく、従ってそれらの堆積はやはり単なる素材の堆積であり団塊であるというだけで、結局はその学者なる陶工の旋盤の上に載せられた粘土・・・ 寺田寅彦 「空想日録」
・・・そこに堆積した土塊のようなものはよく見るとみな石炭であった。ため池の岸には子供が二三人釣りをたれていた。熔炉の屋根には一羽のからすが首を傾けて何かしら考えていた。 絵として見る時には美しくおもしろいこの廃墟の影に、多数の人の家の悲惨な運・・・ 寺田寅彦 「写生紀行」
・・・雲が八方にほとばしりわき上がったと思うと、塔の十二階は三四片に折れ曲がった折れ線になり、次の瞬間には粉々にもみ砕かれたようになって、そうして目に見えぬ漏斗から紅殻色の灰でも落とすようにずるずると直下に堆積した。 ステッキを倒すように倒れ・・・ 寺田寅彦 「LIBER STUDIORUM」
・・・よく成ろうとする無数の力、発展しようとする発芽の希願は、厚い塵芥の堆積の下で、恐るべき長時間を過さなければならないのでございます。 私は明かに私共の仲間である多くの若き女性が、少くとも次の時代に於て、何等か有形の発展を遂げ得る動機を各自・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・そこにやはり記録されざる個々の行跡の偉大な堆積がある。 学者の家 その部屋へ入ったとき日本女は軽くめまいがした。 旧ウラジーミル大公の家の大きい二つの窓の下をネ河が流れている。はやく流れている。どこを見わた・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
・・・自己完成ということは、日本ブルジョア・デモクラシーの完成という点とかかわりあった課題であると理解し「科学的な操作による自己完成の追及の堆積」を決心している青年が描かれているのです。 ここでこの作品が注目する価値をもっている点がはっきりし・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・同志神近は「同盟が過去一年間に堆積して来た指導理論の一部の偏向を極端な形で現している」と認め、同志藤森は、「僕自身いわゆる指導部の一員として」「中條的批難は別として」「僕の知る限り同盟の誰も」「作品を非難しても君の階級的意志を否定する者はな・・・ 宮本百合子 「前進のために」
・・・ 大きい方の弟が、牧場の土のところどころにある黒い堆積をさして、「ねえ、あれ、牛のべたくそ?」と大きな声できいた。「そうですよ」 一緒に牛をみている女中が、のんびりした調子で答えた。 すると、下の弟が、「べたくそ・・・ 宮本百合子 「道灌山」
出典:青空文庫