・・・サンフランシスコ市では、少年少女たちが日本への義えん金を得るために花を売り出したところ、多くの人が一たばを五十円、百円で買ったと言われています。 英国でも、皇帝、皇后両陛下や、ロンドン市民から寄附をよこし、東洋艦隊や、カナダからの数せき・・・ 鈴木三重吉 「大震火災記」
・・・窓の下、歳の市の売り出しにて、笑いさざめきが、ここまで聞えてまいります。おからだ御大事にねがいます。太宰治様。細野鉄次郎。」「罰です。女ひとりを殺してまで作家になりたかったの? もがきあがいて、作家たる栄光得て、ざまを見ろ、麻薬中毒者と・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・一通はお母さんへ、松坂屋から夏物売出しのご案内。一通は、私へ、いとこの順二さんから。こんど前橋の連隊へ転任することになりました。お母さんによろしく、と簡単な通知である。将校さんだって、そんなに素晴らしい生活内容などは、期待できないけれど、で・・・ 太宰治 「女生徒」
・・・木綿をきり売りの手拭を下谷の天神で売出した男の話は神宮外苑のパン、サイダー売りを想わせ、『諸国咄』の終りにある、江戸中の町を歩いて落ちた金や金物を拾い集めた男の話は、近年隅田川口の泥ざらえで儲けた人の話を想い出させて面白い。これの高じたもの・・・ 寺田寅彦 「西鶴と科学」
・・・ 聞くところによると、そのKという女優は、富豪の娘に生れ、当代の名優と云われるTKの弟子になってその芸名のイニシアルを貰い、花やかに売出したのであったが、財界の嵐で父なる富豪が没落の悲運に襲われたために、その令嬢なるKは今では自分の腕一・・・ 寺田寅彦 「初冬の日記から」
・・・ 今からでも大書店で十六ミリフィルムを売り出してもよくはないか。そうして小さな試写室を設けて客足をひくのも一案ではないかと思われるのである。近ごろ写真ばかりの本のはやるのはもうこの方向への第一歩とも見られる。 読みたい本、読まなけれ・・・ 寺田寅彦 「読書の今昔」
・・・だがその芝居は、重吉の経験した戦争ではなく、その頃錦絵に描いて売り出していた「原田重吉玄武門破りの図」をそっくり演じた。その方がずっと派手で勇ましく、重吉を十倍も強い勇士に仕立てた。田舎小屋の舞台の上で重吉は縦横無尽に暴れ廻り、ただ一人で三・・・ 萩原朔太郎 「日清戦争異聞(原田重吉の夢)」
・・・国立出版所は、五カペイキや二十カペイキの廉価版を作って、それ等を売り出した。『集団農場・暁』十五カペイキ。集団農場・暁が、つい附近の富農の多い村と対抗しつつどんな困難のうちに組織されたか、どんな人間が、どんなやり方で――うすのろの羊飼ワ・・・ 宮本百合子 「新しきシベリアを横切る」
・・・つまり、政府で売出す富くじみたいに、三様に書いてみれば、どれか一つには当るかもしれないという、不信頼と心だのみの入れ交った気分が動いたろうと思う。 総選挙がすんで、ほぼ二週間経とうとしている。今日、わたしたちが日々目撃している光景は、全・・・ 宮本百合子 「一票の教訓」
・・・紡績業は明治の初め日本の資本主義発展の基礎になって、少女の安い労働でもって作った紡績生産量を、世界市場へ最も安く売り出し、イギリスのように紡績業が発達していると同時に一般の社会生活が進んでいて労働賃金の高いところの生産品と競争した。近代日本・・・ 宮本百合子 「衣服と婦人の生活」
出典:青空文庫