・・・ ある時、母は私の行く末を心配するあまりに、善教寺という寺の傍に店を出していた怪しい売卜者のところへ私を連れて参りました。 売卜者の顔はよく憶えております、丸顔の眼の深く落ちこんだ小さな老人で、顔つきは薄気味悪うございましたが母と話・・・ 国木田独歩 「女難」
・・・そして二十五六のころ、八百屋を始めたが、まもなくよして、売卜者になった。かつ今は行き方も知れない。そして見ると河田翁その人の脈みゃくらくには、『放浪』の血が流れているのではないか。それが敬太郎へも流れこんだのではないか。 石井翁はむろん・・・ 国木田独歩 「二老人」
・・・ 漢語を用いていかめしくしたる句蚊遣してまゐらす僧の座右かな売卜先生木の下闇の訪はれ顔「座右」の語は僧に対する多少の尊敬を表わし、「売卜先生」と言えば「卜屋算」と言いしよりも鹿爪らしく聞えてよく「訪はれ顔」に響けり。・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
出典:青空文庫