・・・私は自分の住居を宮殿に変えることも出来る。私は一種の幻術者だ。斯う見えても私は世に所謂「富」なぞの考えるよりは、もっと遠い夢を見て居る。」「老」が訪ねて来た。 これこそ私が「貧」以上に醜く考えて居たものだ。不思議にも、「老」まで・・・ 島崎藤村 「三人の訪問者」
・・・今度のは大きさも鼬ぐらいしかないし、顔も少し趣を変えるように注文したのであろうけれど、「なんぼどのような狐を拵えてきたところで、お孝ちゃんの顔が元のままじゃどうしてもだめでがんすわいの。へへへへへ」と、初やは、やっと廻りくどい話を切って・・・ 鈴木三重吉 「千鳥」
・・・ 気の持ち方を、軽くくるりと変えるのが真の革命で、それさえ出来たら、何のむずかしい問題もない筈です。自分の妻に対する気持一つ変える事が出来ず、革命の十字架もすさまじいと、三人の子供を連れて、夫の死骸を引取りに諏訪へ行く汽車の中で、悲しみ・・・ 太宰治 「おさん」
・・・自分自身を悪い男だ、駄目な男だと言いながら、その位置を変える事には少しも努力せず、あわよくばその儘でいたい、けれどもその虫のよい考えがあまり目立っても具合いが悪いので、仮病の如くやたらに顔をしかめて苦痛の表情よろしく、行きづまった、ぎりぎり・・・ 太宰治 「風の便り」
・・・「季節ごとに変えるようなものだわ。真似しましたでしょう?」「なんです。」すぐには呑みこめなかった。「真似をしますのよ、あのひと。あのひとに意見なんてあるものか。みんな女からの影響よ。文学少女のときには文学。下町のひとのときには小・・・ 太宰治 「彼は昔の彼ならず」
・・・しかしこれは現在の場合結果の桁数を変えるほどの影響がありそうもないことは少しあたってみてもわかると思う。 Turumi, Tarumai, Daruma の場合は、活火山だけだとタルマイ一つ、すなわち m = 1 で統計価値があまりに少・・・ 寺田寅彦 「火山の名について」
・・・にも似てるし、hをbに変えると「べらぼう」のほうに近づく。すると結局「わらふ」と「べらぼう」も従兄弟だか再従兄弟だかわからなくなるところに興味がある。ついでに (Skt.)ullasit が「うれしい」で (L.)jocus が「茶化す」に・・・ 寺田寅彦 「言葉の不思議」
・・・単に眼先を変えるというような浅薄な理由によるだろうか。自分はそうは思わない。日本画には到底科学などのために動揺させられない、却ってあるいは科学を屈服させるだけの堅固な地盤があると思う。何故かと云えば日本画の成立ち組立て方において非常に科学的・・・ 寺田寅彦 「津田青楓君の画と南画の芸術的価値」
一 枇杷の実は熟して百合の花は既に散り、昼も蚊の鳴く植込の蔭には、七度も色を変えるという盛りの長い紫陽花の花さえ早や萎れてしまった。梅雨が過ぎて盆芝居の興行も千秋楽に近づくと誰も彼も避暑に行く。郷里へ帰る。そして炎暑の明い寂寞が・・・ 永井荷風 「夏の町」
・・・しかも自然天然に発展してきた風俗を急に変える訳にいかぬから、ただ器械的に西洋の礼式などを覚えるよりほかに仕方がない。自然と内に醗酵して醸された礼式でないから取ってつけたようではなはだ見苦しい。これは開化じゃない、開化の一端とも云えないほどの・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
出典:青空文庫